💞L恋小説💞 春の夏⑧ これって演技ですか?

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春の夏⑧ これって演技ですか?

 昨夜、テレビCMに出ている美和先輩を観た。改めてその凄さを実感した。それにしてもすこぶる美人。

 わたしの上空に居座ったエロスの女神が猛威をふるう。お風呂場でシャワーを浴びながら一回、寝る前にベッドの中で一回、唇に指先で触れられただけでオナニーを合計三回してしまった盛りのついた15のわたし。

 駅前からバスに乗って20分の停留所に美和先輩は立っていた。白いワンピースに白い麦わら帽子。清純派オーラの放ち方がハンパない。清涼感と透明感が溢れまくっている。

 服装には迷ったけれど、結局ミニ過ぎない黒のキュロットスカートと、生地の厚い白のTシャツにした。髪は後ろで束ねて黒いキャップを被った。わたし的にはこれが無難かなって思う。

 美和先輩の家は塀が高くて庭が広くてモデルハウスみたくおしゃれな二階建てだった。玄関の中もクーラーが効いている。脱いだ靴を忘れずに揃え、出迎えてくれた先輩のお母さんに手土産のシュークリームを渡した。

 部屋には鏡が沢山あった。どこにいても自分の姿を色々なアングルからチェックするためらしい。これがプロ根性というものなのか! おそるべし美和先輩。 

 わたしは、渡されたシナリオが書かれた紙を思わず凝視した。
 先輩が「どうしたの?」って聞いてきた。
 昨日、妄想したキスシーンが『二人はキスをする』という文字になって最後の行に書かれていた。
 手をブンブン振りながら慌てて言った。「これ、わたしが書いたんじゃないです」
 「それはそうだよ。でも、なんで?」
 「え、あ、えと、なんていうか、すみません。ちょっとびっくりして」
 しどろもどろに言い逃れを試みた。
 先輩は納得したように「ああ、びっくりするよね。大丈夫だよ。キスはするふりだから」って言った。
 なんとか逃げ延びたみたいだ。
 「じゃあ春ちゃん、衣装借りていい?」
 頼まれていたわたしの制服を紙袋からだして渡すと、わたしは先輩の制服を渡された。柑橘系っぽい良い匂いがする。

 ウォークインクローゼットには全身が余裕で写る大きな鏡が壁にはめ込んであった。わたしはわざと下着だけになり、その姿を鏡に写した。先輩の部屋で半分裸になっている自分にドキドキしてきた。床に置かれて壁に立てかけてある、なんとかヘップバーンの白黒のポスターがわたしを見つめている。

 着替えを済ませて部屋に戻ると、わたしの制服を着た先輩が言った。「ギャルっぽくないよね?」
 ……確かに。生粋の清純派はいくら丈の短いスカートを履いてもギャルには到底とどかない。それを言ったらわたしも同じだ。真面目な制服を着たところで毛穴からもギャル臭が滲みだしている。残念な仕上がりだ。

 目を閉じて口を軽く開けた美和先輩の顔が目の前にある。わたしは先輩にギャルメイクをしている。今、口紅を塗り終えたところなんだけど、まつ毛長っ! 取り急ぎ、髪の毛もギャル風にセットする。にわかギャルの完成だ。

 それにしても、ずっと先輩の太ももが気になってしょうがない。スカートが短すぎる。普段はしっかりとガードされたその白い肌がこんなにも無防備な状態で手が届く距離に存在するなんて。
 「わたしはいつもこの中に短パンを履いてます」
 「そうなの? 知らなかった。これじゃあ見えちゃうよね」って言ってクローゼットに入って行き「万が一見えちゃった時の為にインナーは全部ベージュなんだけどね」って多分短パンを履きながら言った。
 「ちなみに春ちゃんは何色なの?」
 「え、えと、まあ、色々です」素っ気なかっただろうか? 今日は青ですくらい言った方がいいかな?
 先輩はクローゼットから出てきて「そうだよね。普通は色々持ってるよね」って言ってニッコリほほ笑んだ。
 
「じゃあ最初は読み合わせ付き合って。あ、自分のセリフをただ読むだけ。簡単でしょ?」
 わたしたちはシナリオの書かれた紙を手に、自分のセリフを声に出して読みあった。現実とは真逆なんだけど、先輩がギャルでわたしが生徒会長の役だ。
 「私のギャルが変だと思ったら言ってくれる?」
 わたしなんかが恐れ多いですって返したら、先輩はわたしの両手をとって「お願い」って言った。このお願いを断れる強者はこの世に存在するのだろうか? でも、わたしに演技なんてできないよ。ここまで来ておいて尻込みをするわたしが居る。
 「例えばさ、学校休みたい時にさ、げほんげほん。風邪をひいたみたいでって棒読みでいうのはあり得ないよね? 風邪ひいた時の事を思い出して一生懸命にそれっぽく見えるように振る舞うよね。演技も一緒、それだけの事だよ。最初は好きな人の事を思い出してみるのもいいかもしれないね」先輩は演技を仮病に例えて分かりやすく教えてくれた。
 この時、ほんの一瞬、香耶ちゃんの事を意識した。でも、美和先輩の存在があっという間に香耶ちゃんを追い出した。

 先ずは、四回ほどプリントを手にしたまま読みあって、次には動きを付けながらセリフを読んだ。九回目にはシナリオは見ないで演技をした。最初は照れくさいだけだったけど、本気演技をする先輩に引っ張られる感じで、しまいには自覚なくセリフを発し、なりきって動いていた。先輩が目を丸くして拍手してくれた時もある。
 キスも、角度でしているように見えるって言った通りだった。顔と顔の距離はあるのに斜め前にある鏡に映った二人は本当にキスをしているように見えた。

 それからわたしだけ座って、一人で演技する美和先輩にセリフを返しながらギャルっぽくなっているかを確認した。先輩の言い回しが瞬く間にギャルのそれになっていった。

 ここには午後一時半に来たのにいつの間にか夕方の六時になっていた。
 「あーもうこんな時間なんだね。じゃあ最後に本気でやって終わりにしよう」
 わたしは先輩のお母さんが持ってきてくれたアイスティーを一口飲んで立ち上がった。
 「生徒会長がギャルを好きになったらダメなんですか?」
 素人ながらも、感情がちゃんと入っていたと思う。
 すると先輩はわたしを抱き寄せた。さっきまでこんな動きはなかったんだけど。これが本気の演技ってやつなのか。
 先輩はわたしの目を見つめて言った。
 「それは私のセリフだよ。ギャルが生徒会長を好きになってもいいですか?」
 台本通りわたしが頷く。目を閉じた先輩の顔が近づいてくる。
 軌道がさっきまでとなんか違う。先輩の鼻先がわたしの鼻先を越えると同時に唇が触れた。その可憐なリップがわたしの唇に押し付けられている。ハムハムついばみたい衝動を必死でおさえる。これは演技だ、演技なんだ。先輩にキスをされたまま抱きしめられて夢見心地なわたしがいる。

 美和先輩は唇を離すと、ちょっと俯きがちにはにかんだ。可愛いがズバ抜けている。力の限り抱きしめたくなる。
 先輩は顔を上げると、わたしの顔を覗き込んで言った。
 「私のファーストキス」
 はい⁉ なんでそんな尊いモノをわたしなんかに献上されたのですか⁉ いや、これって演技の続きですか? アドリブ?
 「ホントだよ」そう言って抱きしめられた。これは現実なのだろうか? 夢なら一生寝たきりで構わない。

 「晩御飯食べていかない?」おばさんの申し出を丁重に辞退した。もっと一緒にいられるのは嬉しいけれど、緊張しすぎてご飯を上手に食べられる気がしない。

 来た時とは反対のバス停にあるベンチに並んで座った。後ろの草むらでカエルが鳴いている。この辺りは田んぼや畑が沢山あって、山から吹いてくる風が気持ちいい。
 「春ちゃんにとって水墨画って何かな?」
 「夜の雲です。好きなんです。必要最小限って感じで。水墨画ってそんな感じするなーって。あ、今のコメント使えます?」
 「今のは春ちゃんの感性でしょ。時間ないけど水墨画の練習して私なりの言葉を見つけてみるね」
 カッコいいなー、やっぱり違うな。これがスターになる人の発言だよね。

 それにしても、清楚な白いワンピースに身を包んだギャルメイクの美和先輩の姿はミスマッチでなんか笑える。でも美人なんだよな。

 バスの前方に駅が見えてきた。わたしは夢の世界から現実の町に帰っていく。紙袋の中の制服からは柑橘系な香りがする。

続く

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