(仮)が消える瞬間  💞L恋小説春の晩夏12💞 

L恋小説

💞L恋小説💞 春の晩夏12 (仮)が消える瞬間

 結局、自販機で飲み物買ってベンチでバスを待つことにした。美術館の門は閉まり、裏から出てきたであろう職員の人たちの車が目の前を通り過ぎていった。
 「明日、空いてますか? 良かったらまたここに来ませんか? 今日はゆっくり味わえなかったので、付き合ってください」
 それも有りか。あの雲の版画にまた会いにくるのも悪くない。
 背後で自転車にブレーキをかける音がした。
 「あ……」
 実習生がわたしの顔から視線を上げた。つられて振り返ると、自転車にまたがった香耶ちゃんがわたしたちを見おろしていた。そう言えば、停留所1つ先に香耶ちゃんの家がある。
 「宮下さん、こんばんは」実習生が立ち上がって挨拶をした。香耶ちゃんが無言で頷く。
 「今日は美術部の校外学習で美術館にきました」
 「そうですか」香耶ちゃんは腑に落ちない顔をしている。わたしたちが二人で居ることに違和感があるみたいだ。
 「夏月さんだけ、ちょっとはぐれてしまって、皆は先に帰ってもらったんです」
 「そうなんですか」まだ疑惑が残っている声だった。
 「はぐれたわけじゃないんだけど」
 微妙にヤサグレた感じを出してみた。これで手をやかせる部員と引率者の関係に思えるだろう。香耶ちゃんは納得した顔になった。
 「良かったら宮下さんも一緒にお話ししませんか?」
 「いえ、家のことがあるので」
 香耶ちゃんはお辞儀をしてペダルを踏み込んだ。
 取り合えずホッとした。自転車を漕ぐ香耶ちゃんの後ろ姿が遠ざかっていく。そう言えば、わたしは香耶ちゃんと一言もしゃべらなかった。
 ライトを灯したバスがきた。いい加減辺りは暗くなった。七月なんてまだ明るかったのに。そろそろ夏も終わっていくのかな。香耶ちゃんに話さないといけないって思っていたことがこれっぽっちも伝えられないままだ。

 そういえば、ふと思って疑問を投げかけた。
 「香耶ちゃんとわたしの関係ってどう思います?」
 「友人以上な印象を受けます。以上ですから友人を含んでいます」
 補足機能もバッチリなAIの解答みたいだ。
 「気になる?」
 「気になりますが、別にいいです。例えば、身体の一部を打撲したとします。痛みはありますが、ただそれだけです。必要以上にそこに触れたら痛みが強くなりますが、気にしなければただなんとなく痛いだけです。それに似た感覚です」
 やっぱAI。チャットボットだ。
 「いずれにしても、今の夏月さんは私のカノジョです。誰にも渡しません」
 ボットちゃんウケる。思わず噴きだした。ボットちゃんって呼ぼうかな。いや、今の時代そんなあだ名はまずい。いや、そんな命名をするわたしの神経を自分でも疑う。でも、名前で呼びづらいな。取り合えず保留にしておこう。

 バスが駅前に着いた。
 「明日なんだけど、やっぱり美術館は止めません? 香耶ちゃんの家、近いからまたバッタリするかも」
 「そうですね……では、どこで会うか考えてみます。後で連絡します」
 わたしは左に、実習生はバスの乗り換えで右に向かった。

 部屋に戻って、もらったポストカードを袋から出して見た。
 あらためて考えてみる。付き合うことにしたけど、これでいいんだろうか? かといって、別れようとは思っていない。ならいいか。仮だもんね仮。カードは袋に戻して引き出しに入れた。
 あの人からLINEがきた。明日の件だ。一人暮らしの部屋に誘われた。これってエッチ期待しちゃっていいってこと? 仮の恋といいつつ、ちゃっかりとエッチを連想する煩悩あふれるわたしです。

 日曜日な本日も、朝っぱらから猛暑な幕開け。9月中旬とはいえまだまだ夏だよね。
 これでも高校生なんで午前中は勉強をした。昼ご飯をお姉ちゃんと食べて、シャワーを浴びて出かけた。もしもエッチすることになってもいいように、昨夜ドンキで買った大人な雰囲気がする黒の下着の上下を身に付けて。白Tシャツだともろに透けるから暑いけど黒のTシャツと黒のキュロットスカートにした。中も外も全身黒だらけだ。

 駅前から隣の市にある女子大方面行きのバスに乗る。その途中にある農協前の停留所で降りると、待ち構えていた実習生がニコニコしながら手を振ってきた。白いサイドラインの入った黒のショートパンツから軽く筋肉質な長い脚が印象的に伸びている。ラフだけど、背が高くてスタイルが良いから恰好よく見える。今日のメイクも髪も決まっている。
 少し歩くと二階建てのアパートに着いた。広めのワンルームで、この先にある大学に通う学生向けらしい。一番奥の角部屋だって言ってコンクリートの外階段を先に上りだした。
 部屋の中はシンプルでモノが少ない。小さなテーブルとノートパソコンとベッド。読み込まれたと思われる教育とか心理学とかの本が沢山並んだ本棚。その中に真新しい版画の本が二冊あった。これをみて勉強したんだろうか。不思議なことにバレーボールに関するものが一つもない。高校時代はかなり活躍していたらしいんだけど。
 背後に気配がして、いきなりだった。昨日と同じように抱きしめられた。わたしの顔を覗き込むようにして唇がわたしの唇を目指してきた。
 「ちょ、ちょっと待って」思わず慌てた。
 「どうしたんですか?」
 いきなり過ぎ。なんかタイミングっていうか、雰囲気っていうか作って欲しかったりする。 
 「やっぱり恋愛下手だよね?」
 「上手い下手。それはどっちでもいいです。今の私は夏月さんとの恋を楽しんでいます」
 いつもの作ったような笑顔じゃなくて、自然で本当にうれしそうな微笑みを見せると今度はゆっくりと顔を近づけてきた。
 オレンジ系のグロスが塗られた唇をわたしは目を閉じて受け止めた。厚みのある下唇をついばむと、すかさずついばみ返してきた。お互い唇の感触を楽しみ、どちらからともなく舌の先をつつき合い、微かな音をさせながら絡め合った。キスをしながらわたしの髪の先を指が撫で、いつの間にか胸の上に手が置かれていた。そっとバストトップ辺りを撫でられた。身体が反応しそうになるのを我慢する。触れられている胸を意識していたら、もう片方の掌が太腿を撫でていた。会話の硬さからは想像できない滑らかさだった。
 あっという間にTシャツを脱がされた。ブラから買いたての衣類の匂いがした。カノジョの動きが止まった。いつだったか教室でフリーズした時みたいだった。「わたし、まだ手もつないでいなかった」みたいなこと言うのかな? そういうのは本当に萎えるから勘弁してほしい。
 そうしたらカノジョはおもむろにTシャツを脱いだ。わたしと同じ黒いブラをしていた。
 「もしかして……」
 二人同時に呟いてわたしはキュロットスカートを、カノジョはショートパンツを脱いだ。パンティも同じ、レースでちょっと透けている黒だった。
 顔を見合わせて「ドンキ」ってハモった。
 カノジョからも新品の匂いがした。昨夜、入れ違いで同じものを買ったらしい。共通項を発見した気がする。わたしの中にあったカノジョに対するわだかまりみたいなものの半分くらいがほどけた気がする。そう思った途端に下心だけで挑むようなエッチな気持ちが(仮)の文字と一緒に消えてしまった。
 わたしは脱いだキュロットを上げてTシャツに頭と二本の腕を通した。カノジョは意表を突かれたような顔をしてわたしを見る。カノジョが脱ぎ落したTシャツを拾って頭から被せた。意味が分からないというような顔をしながらカノジョはショートパンツを引き上げた。
 服を着てもなお、わたしを戸惑った顔で見つめているので頭の後ろに手をあてて胸に引き寄せた。
 「なんか、大事にしたくなった」耳元にささやいた。
 「うん」かすれた声の返事が心地いい。
 さっきまで恋人ってことに抵抗があった。でも、なんとなく、わたしたちが始まっていく感じがした。

続く

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