💞L恋小説💞 春の晩夏6 友だちから始める恋愛の旅
寄ってみたい場所があって香耶ちゃんには先に帰ってもらった。
美和先輩とお別れする決断を2回もした公園スペースは相変わらず誰もいない。有紗さんのことは取り合えず無かったことにして、香耶ちゃんとのことをちょっと考えてみる。
美和先輩と別れたからといって、じゃあ香耶ちゃんと。なんてわけにはいかない。
でも、順番でいうと香耶ちゃんと先に始まったのも事実。そこに『付き合う』って言葉がなかっただけだ。
つくづく約束ってすごいと思う。もしもあの時、付き合うという言葉を交わしていたら美和先輩と恋に落ちることはなかったかもしれない。
香耶ちゃんとは先ず友だちから始めてみよう。友だちって自然とそうなってるもので、誓い合う関係ではないって聞くけど、今のわたしには、ちゃんと言葉にすることが肝心だから。
今日、話ができるようなら「友だちからやり直して」って言おうかな。「友だちになって」じゃないってことは付き合う可能性をわたしは残したいのか? ま、そこはいっか。その辺はちゃんと会って話してからだよね。
9月9日の本日は、日差しも強いし、蝉だって声高らかに鳴いている。目に入ってくる景色も、感じる空気も20日前と何も変わらない。記憶の中の夏のままだ。
夏休みも終わってしまった平日だからか、お洒落カフェはデッキに男女のカップルが二組いるだけだった。先に奥にある販売所に行ってみる。
見た事のある人がいる。香耶ちゃんの従姉の人だ。桃をカゴで買って受け取ると唐突にわたしの名前を呼んだ。
「春ちゃんでしょ!」
「え、あ、はい」
「香耶がね。あなたが来るって言ってウキウキして帰ってきた。ここ最近で一番ごきげん」
なんか嬉しいな。
「待ってて、連れてくる」
そう言うと脇にある家の玄関に急いで入って行った。
でも、どうしてわたしって分かったんだろう? この人はドンキで一方的に見かけたのと、変装している時にちょっと顔を合わせただけだ。勿論、その時のわたしに気が付いてはいないはず。
そんなことを考えていると香耶ちゃんが家から出てきた。小さく手をあげて小走りで駆けてくる。
「春ちゃん、いらっしゃい」
香耶ちゃんがニコニコして近づいてくる。この笑顔はやっぱりホッとする。
「香耶ちゃん、今日って話せる?」
「あ、どうかな……」
「無理ならいいから」
「いいじゃん。話してきなよ。ここ大丈夫だから」
「うん!」
香耶ちゃんが元気に頷いた。
「まあ、なんか良かったよ。香耶ずっとあなたの画像みてため息ばっかりついてたんだから」
画像? こっちに来て写真に写ったことは一度もない。中学の卒業アルバムにさえ載ってないんだけど。
「画像って?」
従姉さん一瞬『あっ……』って顔をした。
「春ちゃんごめんなさい。どうしても欲しくてコッソリ」
「………………」
「これくらい良くない? 漫画とかでもよくあるじゃん。気になる人の写真をコッソリってさ。それだけ香耶はあなたに想いを寄せてたってことだよ」
言ってることの半分以上が分からない。いや、頭に入ってこない。ショックだった。なんか胸の辺りがゴッソリえぐられた感じがする。他の誰かだったらこんなに気持ちがキツクはならなかったと思う。
気がついたら走ってた。膝に力が入らないから上下にガクガクなった。バス停の時刻を見たら出発した直後だった。まったく中途半端な田舎町め。次のバスまで1時間以上とかあり得ないんだけど。もういい、できるだけ早く離れたいから歩く。
そう思って歩いていたら、バスに追い越された。1分待てば乗れてたじゃん。遅れるなよ。つくづくツイてない。
香耶ちゃんが自転車で追いかけてくるかと思ったけどそれはなかった。追いかけてこられても困るけど、香耶ちゃんの口から言い訳を聞くことはできるかもしれないけど。でも、ダメだ分からない。気持ちが考えを整理させてくれない。
駅の前を通り過ぎた時だった。後ろから名前を呼ばれた。聞こえないふりをして歩き続けたら前に回り込んできた。真理江ちゃんだった。
「春ちゃん、久しぶり」
曖昧に頷いた。そして、一瞬思った。また真理江ちゃんと遊ぶのも有りかもしれない。
「あの美人のギャルの子と上手くいってる?」
美和先輩のことだ。曖昧に首を傾げた。
「私、彼ピできてさ。これからお茶するんだけど、春ちゃんも一緒にくる?」
首を横に振った。
「うん、そっか。なんか元気ないけど大丈夫?」
今度はなんとなく頷いた。
「……じゃあ、彼ピ待ってるから行くね」
髪を結んだピンクのリボンを揺らしながら小走りで戻って行った。
バカみたいな期待をした。いくらなんでも都合がよすぎる。何気に孤独を感じた。急に辺りが暗くなった。ショックが強いと視界までおかしくなるのか。
でも、そうじゃなかった。次の瞬間、頭に大きな水の粒がぶつかって弾けた。その水滴がおでこを伝って右のほっぺに達した時だった。一気に降ってきた。
いくつもの雨の斜線の向こうで何人かの人が頭に手をあてて走り出した。いつか見た光景な気がする。わたしもどこかに駆け込もうかと思って見たウインドウの中にあの和菓子屋の副社長さんがいた。軒の下にさえ避難する気はなくなった。
地面にぶつかった雨粒が跳ねてふくらはぎにまで当たる。灼けたアスファルトと埃が混じった生ぬるい匂いが持ち上がってくる。髪の毛はあっという間にペシャンコになった。鞄も服もずぶ濡れだ。
斜め前にあるコンビニから透明のビニール傘が開きながら出てきた。半開きの傘の後ろにあの人の顔があった。今日からきた実習生の人だ。目と目が合った。こっちを見つめたまま動きが止まっている。
わたしは目をそらして、ずっと追いかけてくる視線を感じながらそのまま歩いた。通り過ぎても何も起こらなかった。声を掛けられることを期待したんじゃない。予測が外れただけだ。
それにしてもこの雨はしつこくて痛い。これは、線状降水帯? ゲリラ豪雨? 夕立? みんな同じなら『夕立』がいいな。言葉の響きが一番優しくてどこかに救いを感じる。
続く
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