陰キャな私でも漏れなく解放感というものは味わう。
7月20日、終業式で今日の学校は半日だけ。
夕方には二つ年上の従姉・万知子ちゃん家族が泊まりに来る。万知子ちゃんはお姉ちゃん的な存在で私から元気を引っ張り出す名人だ。
晩御飯を皆で食べて花火をした。夜は万知子ちゃんだけ私の部屋で寝るんだけど、女子トークをしていたら私の好きな人を追及された。
「憧れの人はいるよ」って言ったら「だれだれ? どんな人?」ってしつこく聞いてくる。そうなることは分かっていて、全然いやじゃなくて、むしろドキドキを楽しんでいる自分がいる。
私は三ツ矢サイダーで喉を潤し、同じクラスの夏月春ちゃんのことを話した。
春ちゃんは金髪で見た目ギャルでクールな感じ。他のギャルの子たちと話したりもしているけど、意味なく集ったりしなくて、なんていうか孤高さを維持している。
私が廊下にプリントをばらまいちゃった時、皆は見向きもせずに通り過ぎていったけど、春ちゃんだけが隣にしゃがんで拾ってくれた。腕と腕が触れただけでキュンってなって、ハラって髪が垂れた横顔を見た瞬間、春ちゃんの周りだけ真っ白に光った。目を奪われるってこういうことなんだってこの時、初めて思った。
黙って立ち去る春ちゃんに「なんで拾ってくれたの?」って聞いたら、「別に当たり前じゃん」って言ってちょっとだけ目を細めてほほ笑んだ。
「もう尊敬しかない!」って万知子ちゃんに言ったら、「それは違う」って否定された。
「そんなの尊敬じゃないよ」
いつも私の味方だった万知子ちゃんに反論されるなんて今まであっただろうか?
「それは、尊敬じゃなくて、恋じゃん」
「恋?」
「淀みなく」
どうやら私は女の子に、クラスのギャルに、春ちゃんに、恋をしているという事らしい。
「告白だな」
「はぁ!!!」
床を突き抜け親たちがいる一階のリビングまで聞こえるくらい大きな声が出た。何デシベルかしらないけど、大声チャンピオンになれそうな、発した自分が驚く大きさだった。
「このままじゃ退屈じゃない?」
「ないない、もう充分」
「充分って満たされまくってるってことだけど?」
「……うん」
万知子ちゃんが「画像ないの?」って言うから、GRコードを読み込むふりしてこっそり撮った春ちゃんが小さく写っているスマホの中の写真を見せたら「へー可愛いじゃん」とか言いながら、写真拡大したりするフリしてクラスのグループラインに入っている春ちゃんにメッセージ送ってた。
『急だけど、明日の夜、ドンキに一緒に行ってくれますか? 春ちゃんの意見が欲しくて』
送信済のメッセージを力強い目をした万知子ちゃんがわたしに見せつけた。
「いゃぁ~~~!!!」
さっきよりも大きな声がでた。わたしは一人大声選手権で自己新記録をたやすく更新した。
こんなLINEして嫌われたらどうしよう……
「こういうタイプの子は意味なく嫌ったりしないから大丈夫」
「でも、ギャルだよ」
「それって偏見じゃん」
ちょっと怒った顔で言われちゃった。気まずくなって話をそらした。
「でも、春ちゃんの意見欲しいって、どういうことなの?」
万知子ちゃんは、「それは誘う口実で、理由があればなんでもいい。でもないのはダメ」って説明してくれた。
そして、「セクシーなブラとパンティ二つ見せて、どっちがいいか選んでもらいな」と言ってきた。
多分、ここで再びの自己新記録更新のチャンスだったと思うのだけれど、春ちゃんからの返信が記録の更新を妨げた。
メッセージを開く勇気がない。てっきり万知子ちゃんが色めきたって開くと思ったんだけど、意外と冷静に話を続けた。
万知子ちゃんいわく、リップとかありきたりなものじゃ、インパクトないし「そんなのわたしに聞かなくていいじゃん」って思われるでしょ? それこそ、こんなつまんない事で呼ばれたのかって思われちゃうよって力説してきた。
なんか話は耳に入ってきてるんだけど、返信が気になって、理解できるような分からないような。
「じゃあ、賭けよう。来ないなら、このLINE送ったのは私のせいにしていい。来るならセクシーランジェリー」
万知子ちゃんは私のスマホを振り振りしながら「折角すぐに返事くれたのに、香耶が返事しないの失礼だよ」って追い打ちをかける。
差し出されたスマホを受け取り、ドキドキしながら返事を開いた。
驚きと喜び、その直後にプレッシャーが……。ドリンクバーで混ぜまくったオリジナルジュースの色みたいになって私の心のなかで処理に困っている。
でも、作っちゃったからには飲むしかない。大体にして見た目に反して美味しいって相場は決まっているんだ。
ドンキの入り口で待ち合わせをした。春ちゃんはTシャツに短パンにクロックスのサンダルを履いてきた。
「来てくれてありがとう」
「うん。それでわたし、どうしたらいい?」
「欲しいものがあるんだけど、どっちがいいか迷ってて」
「分かった」
気が付いたらランジェリーコーナーにいてハンガーに掛かっているセクシー過ぎるランジェリーを顔の左右に持っていた。
「どっちがいいかな」
春ちゃんがきょとんとした顔をしている。どうしよう。なんちゃってとか言って無かったことにした方がいいんだろうか。
「それどうするの?」って聞かれた。
思わず「私の、なんだ……」って答えてた。
あわわわわ。どうしよう⁉ もう逃げられない。しかもこれ、Tバックってやつじゃないですか――
「あ、そっか。誰かにプレゼントするのかと思っちゃた」じゃっかん引きつり気味に春ちゃんが言った。
引かれちゃったよね。でも、春ちゃんはしっかりと考えてピンクの方を指さしてくれた。レジにも一緒に並んでくれて無事に購入した。
こんなエッチな下着が入ったカバンを持って歩くなんて、春ちゃんと一緒にいるドキドキに輪をかけてドキドキする。
万知子ちゃんの戦略によると「買い物だけじゃデートにならないから。花火しな」そう言って花火の残りから線香花火が選ばれた。
「地味なんじゃ……」
「あのね、距離を詰めるのにこれほど自然なアイテムないからね。普通の花火だったら距離がでる事あるけど、線香花火だったら火を点ける時に近づいたら、火が落ちないようにそこから動かないでしょ? そして火種に集中しているからキスのチャンス!」
なんで一気にキスなのか? もうなんだか色々説明されたけど私の頭の中は戦略という情報でパンパンだ。
結局、花火しようって言い出せなかった。丁度いいかな、ライターを忘れてきちゃったから。すると、春ちゃんが「花火見たかったな」って言った。
急いでコンビニに走ってライターを買ってバッグに入れた。手ぶらで戻るのも変かなと思って、たまたま目に付いたチョコモナカジャンボを買った。
味なんて分からない。なんだか上手く食べられなくて唇に付いたアイスをちょくちょく舐めた。
そして、私は万知子ちゃんが描いたシナリオに忠実に? 自分を演じた。かなりな大根役者っぷりだったし、セリフが飛んだりしたけど、春ちゃんのほっぺにキスをするという大収穫を収めた。春ちゃんは柔らかくて良い匂いがした。
ただ、目的を達成した後についての作戦は頭に入っていなかった。私は戸惑い、ふと自分がしでかした事の大きさに気が付いた。「仲良くなりたくて」みたいな言い訳をして逃げ去った。
ドキドキが止まらない。私、春ちゃんのほっぺにキスをした!
続く
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