💞L恋小説💞 香耶の夏② 夏は終わった

L恋小説
香耶の夏② 夏は終わった

 春ちゃんのほっぺにキスをしてしまった。
 万知子ちゃんは上出来だと言って大はしゃぎをしているが、私の心に後ろめたさがべったりと貼り付いている。相手の了承も得ずにキスをするなんて……
 私は自分を強制わいせつの罪で起訴すべきかと思っている。

 それから二日間、何のアクションも起こせなかったけど、万知子ちゃんにじっくりと説得されて花火大会に誘うことにした。夜にLINEしたけど既読にならなかった。
 やっぱり怒ってるんだ。そうだよね、いきなりキスするなんて私は最低だ。
 学校がはじまったらどうしよう。顔を合わせづらいな。クラスの皆に言ったりしないかな。いや、春ちゃんはそういう事をする人じゃないよ。

 兎に角、私の夏は終わった。そもそも夏は好きじゃないから別にいいけど。 

 次の日の朝だった、春ちゃんから返事がきた。起訴する前に私の罪は取り下げられた。晴れやかな気分が私を変えた。外に出て太陽光線をたっぷり浴びる。青い空にモクモクした白い積乱雲。夏も悪くない。

 春ちゃんは待ち合わせにちょっとだけ遅れてきた。髪の毛がしっかりとセットされて浴衣もバッチリと決まっている。私も浴衣にして良かった。
 万知子ちゃんいわく、「この前のキスがあっても、こうして来てくれるってことは、その子も香耶の事好きだね。絶対に告白してきな」
 春ちゃんも、私の事が好き……
 頭の中がいっぱいで会場に着くまで何を話したのか殆ど覚えていない。

 花火はとても盛り上がった。途中で春ちゃんが私の手をつないだ。どんなリアクションをしたらいいのか迷ったままでいた。でも、これなら告白したらOKしてくれるかもしれない。いつ告白しよう? なんて言おう。
 「春ちゃんが好きです。付き合って下さい」心の中で何度も唱える。
 花火はクライマックスを迎え連発で打ちあがった。周囲の皆がジャンプしたりして盛り上がっている。そんな勢いに背中を押された。告白するなら今だ!

 春ちゃんの方を向いたら両手を上げてハイタッチのポーズをしている。その手に私の手を当てると、指の間に春ちゃんの指が入ってきて恋人つなぎになった。春ちゃんの顔が近づいてくる。その唇を私は受け止めた。

 万知子ちゃんに報告したら、お祝いと言ってコンビニでお赤飯のおにぎりを買ってきてくれて二人で一つずつ食べた。初潮の時以来のお赤飯かな。
 食べながらどっちが彼氏でどっちが彼女なんだろうとか、よく分かんない議論をした。

 でも、私は一つだけ引っかかっている。「付き合う」って言葉でお互いの気持ちの確認をしていない。万知子ちゃんは言葉より態度だって言うけれど、私のような陰キャを春ちゃんは本気で相手してくれるのかな。

 それよりも、ピンクのセクシーランジェリーを買ったのはいいけれど、これは洗濯にだせない。お風呂に入る時に手洗いして、こっそりと部屋の中に干しているのだけど、万知子ちゃんには見られてしまう。恥ずかしいけどしょうがない。

 そして夜、万知子ちゃんが聖地巡礼しようと言い出し、私たちはドンキに行った。ランジェリーコーナーでは、その時の様子を再現させられ、調子に乗った万知子ちゃんに胸を鷲掴みされ、コンビニでチョコモナカジャンボを買って、公園にいって線香花火をして帰宅した。
 その時のことを思い出しながらの巡礼は楽しかった。また春ちゃんに会いたいな。

 「何言ってんの?」
 家業である桃の出荷の手伝いをしながら万知子ちゃんからダメ出しをもらう。
 「付き合ってんだから、気にせずに誘いなよ」
 その付き合ってるという言葉に幾ばくかの抵抗があるけれど。
 「じゃあ、今日会って、ちゃんと言えばいいじゃん。付き合って下さい」って。
 「う、うん……。でも誘う理由が……」
 「会いたい。それが理由。いまの二人の間にはさ、それだけで充分なんだよ」

 万知子ちゃんは、本当に私の背中を押すのが上手い。私はポケットからスマホを取りだした。
 『急だけど、今日のお昼過ぎくらいに会えますか?』
 なんだろう? 私と春ちゃんの仲は近づいたはずなのに、LINEに文字打つのも、送信をタップするのも、既読になってもならなくても、緊張が止まらない。
 「会いたいって追伸しな」
 私は万知子ちゃんに従った。というか言いなりになったんじゃなくて本音を書いた。
 『無理だったらいいからね。用はないんだけど、なんだか会いたくなってしまったのです』
 二つとも既読になっている。でも、そのまま返事が来なかった。
 どうしたんだろう? 何かあったのかな? 単純に忙しいのかな? 私、何か嫌われるようなことしたかな?
 「うざいよー」ウジウジしていたら万知子ちゃんにたしなめられた。

 お昼ご飯を済ませたら、親から軍手を束で買ってくるように頼まれて一人で出かけた。するとドンキの近くでこちらに歩いてくる春ちゃんを見つけた。次の瞬間、春ちゃんは不自然に角を曲がった。
 私のこと見たよね? 目、合ったよね? なんで避けるの?
 万知子ちゃんから電話がきた。「おじさんが遅いけど、どうした? って」
 いつもの金物屋さんが休みだったからドンキに向かってるって言った。
 「できるだけ早くしてだって」
 モヤモヤしたまま歩いた。春ちゃんが曲がった角の先からこっちをちらっと見ている気がする。あの金髪は春ちゃんだよね。

 もうどうしたらいいのか分からない。万知子ちゃんに電話で相談した。
 『どうして避けるの? 私、何か嫌われるようなことした?』
 言われたままLINEで送った。直ぐに既読になったけど、返事はこない。電話の向こうでは「軍手早く」ってお父さんの声が聞こえる。予備切らして買うの忘れたの誰なの? なんか生理の時よりイライラする。

 軍手を買ってお店を出る前に念の為スマホを見たけど、春ちゃんから返信は無かった。 
 歩いていたら春ちゃんの後ろ姿を見つけた。歩道の真ん中で立ち止まっていた。とっさに隠れた。さっきの春ちゃんと同じことを私はしている。そっと覗いてみる。春ちゃんはじっと動かない。どうしたんだろう? 私は来た道を戻ってドンキの前にある信号で向こう側に渡って小走りした。
 通りの反対側から見ると、春ちゃんはまだそこに居た。スマホの画面をじっと見つめているようだ。
 もしかして言い訳考えてるの? やっぱり、遊ばれたのかな? だよね。私みたいな陰キャのことを春ちゃんが本気で好きになってくれるはずないよ。

 え、違う。そうじゃない。だったらこんな暑いところでずっとスマホ見つめてたりなんてしないよ。

 きっと何か事情があったんだよね。ずっとああしてるの? 熱中症になっちゃうよ。向こうに渡って声掛けようかな。でも、あんな文を送っちゃったし、どうしよう……春ちゃん動かないよ。さっき送ったのが原因だったら……
 私は来た道を走った。我慢していた汗がどっと吹き出した。ドンキの前の信号が私の足を止めた。そうしたらクラクションの音が何度もした。車道を見ると万知子ちゃんのお母さんが軽トラに乗っていた。
 「作業が進まないから早くしてだって」
 もう、だったら最初から車で買いにくれば良かったのに。お父さんならそう言えたけど、伯母さんにはそんな口きけない。
 
 助手席から春ちゃんを目で追った。まだスマホを手にしたままじっと立っている。
 私はトークに入力した。『ごめん。間違えたみたい』
 これでどうだろう? 苦し紛れとはいえ、意外といいんじゃないか。直ぐに既読がついた。やっぱり春ちゃんは私のLINE見てたんだ。

 振り返って見たけど春ちゃんの姿は確認できなかった。お願い、春ちゃん。早くそこから涼しい所に移動して。

 後ろめたい気持ちを抱えて蒸し暑い車内で前を見つめた。何か罪を犯した気分になる。なんだろう? 嫌な予感がする。やっぱり夏は好きになれないのかもしれない。いや、夏が私を好きになってくれないのかも。

続く

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