恋を始める覚悟 💞百合恋小説 春の晩夏4💞

L恋小説

💞L恋小説💞 春の晩夏4 恋を始める覚悟

 夕方になっても衰えを感じさせない太陽の光が、有紗さんの白い身体にレースのカーテンの花柄模様を写しだしていて、なんとなく芸術の香りがする。
 エッチしたけどトキメキがない。でも、わたしは有紗さんを受け入れたし、お互いが求めあっていたんだと思う。
 香耶ちゃんとはこのまま友だち関係で落ち着きそうだし、美和先輩とは、お互い別々の道をちゃんと歩いて行こうねって約束をした。まだまだ心に引っかかるものがあるけど、こんな感じで有紗さんと始めてみるのも有りなのかもしれない。
 などと、計算らしきことをしてる不健全な15のわたしです。
 「ねえ春っち、これから予定ある?」
 「別にないですけど」
 「晩ご飯食べに行こ」
 外はまだ明るいけど、そろそろ7時になろうとしていた。 

 有紗さんの車に乗って山の中にある古民家を改装したイタリアンに行った。
 その途中、見覚えのある景色があった。そこは、美和先輩の家に向かう道だった。家に近づくたびにドキドキしたけど、意外とわたしは冷静だった。通り過ぎる時に、こっそり目線を送った。この通りを見おろすように立っている二階建ての家。ほんの一瞬、カーテンの閉まった美和先輩の部屋の窓が見えた。まだ車内で薄っすら香っている柑橘系の匂いも記憶にトッピングしてみる。こみ上げてきたのは懐かしさだった。もしかしたら思い出になり始めているのかもしれない。

 車は更に坂道を進み、脇にそれた。林の間の細い道をぬけると広い駐車場があって、奥に古い日本家屋が建っていた。その玄関を隠すように大きなイタリアの国旗が地面にある杭と屋根の下のフックにひっかけられたロープでぴんと張ってある。
 「ここ、連れてきたかったんだ。春っちイタリアン好きじゃん」
 「有紗さんに言いましたっけ?」
 「私と初めてシフト被った日、店長に言ってたじゃん」
 「そんなこと良く覚えてますね」
 「そんなことじゃないよ」
 「はい?」
 「そんなこと、じゃなくて大事なこと」
 有紗さんは最初からわたしのことを気に入ってくれていたのかもしれない。
 外に出ると色んな虫の声がしていた。山の中だから空気がちょっと違う気もする。

 お店は東京から移住してきた夫婦でやっていて料理はおいしかった。真鯛のカルパッチョは冷たくてサッパリ食べられた。バジルの薫りが効いたチキンのハーブソテーは意外とジューシーで皮がパリパリだった。ポテトニョッキはモチモチな歯ごたえがなんだか気持ちまで楽しくしてくれた。今度家で作ってみよう。
 会話は他愛のないものだった。共通の話題はバイト先のピザ屋。わたしが泣いた理由も、さっきエッチした事にも、触れることはなかった。
 お腹いっぱいなのでデザートはあきらめた。もうちょっとだけ付き合ってって言われて頷いた。 

 車は山道を上っていった。山のどの辺りなのかよく分からないけど、ちょっとしたスペースに停車した。目の前には町の夜景が広がっている。東京にはまるでかなわないけど、それなりに綺麗だった。
 有紗さんは、この前わたしを誘ったときにここに連れてきたかったんだって言った。なんだか告白の雰囲気がする。なんて返事をしたらいいんだろう? いや、なんとなく、わたしは頷く気がしている。意識したらドキドキしてきた。わたしの中には、もう恋ができる余地があるらしい。
 有紗さんは前を見つめたまま話し出した。
 「春っち、しつこく誘ってごめんな。実はさ、私、東京で一人暮らしすることになってさ。専門、忙しくなって、家から通うの限界でさ」
 ―― え?
 「それで、バイトも辞めるし、春っちとも会えなくなるから」
 これってどういう事だろうか? こんなに少ない情報の整理ができない。
 「春っち、ありがとね。最後に良い思い出ができた」
 そっか、有紗さんはわたしと始めたかったから誘ったんじゃなくて、わたしへの気持ちを終わらせるために誘ったのか。
 なんとか気持ちを切り替えて、受け入れ準備して、そして心のどこかで期待して……。
 わたし、バカみたいだ――。
 有紗さんがわたしの顔を覗き込んだ。
 「春っち、大丈夫か?」
 「そうだったんですね。夏休みもう終わってるのにバイト来てるからどうしちゃったんだろーとか思ってたんですけど。謎がとけちゃいました。あースッキリ」
 強がりが唇を動かしていた。
 「春っち……」
 「あの、そろそろ帰りません? お姉ちゃんが心配するといけないんで」
 「うん」

「何かで帰ってきた時とか会えませんか? わたしが東京に遊びに行く事だってたまにはできるし」
 そんなことを自分から言い出してまでこの関係を深めたいとは思えなかった。

 帰りはどうでもいいことをずっとしゃべり続けた。余計なことを聞かれたくないし、それを話したところで何にも始まらない。終わりが見えてるのに始めるための会話なんて必要ない。
 家まで送るっていうから断った。駅まででいい。わたしへの距離をもうこれ以上詰めないで欲しい。駅に着くころには美和先輩と同じ香りは無くなっていた。

 部屋には入らずに屋上に行った。
 あの人が悪いことなんて何もない。求めたものが食い違っただけ。ほんの数時間、一緒に居ただけだ。なのに、なんで切なくなるんだろう。
 見上げる気力はないから仰向けに寝そべって空を見る。雲一つない夜空にいる月の強い明りがそこにいるはずのいくつもの星の輝きを奪っている。

続く

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