二人だけの秘密の部屋 💞L恋小説 春の晩夏17💞

L恋小説

💞L恋小説 春の晩夏17💞 二人だけの秘密の部屋

 大きな扉が開け放たれているけれど、無風な体育館は座っているだけで汗ばんでくる。綺麗に磨かれた床は、白いバレーボールを落とさないように動き回っている人たちの影を写している。
 コートの脇から大きな声を張り上げている先生は、初めて見る先生だった。険しい表情になったり、満足そうに微笑んだり、とても感情的だ。言葉にいつもの角ばりがない。かといって丸じゃない。いつもが四角なら三角って感じ。言葉が荒いんじゃなくて短くて強い。これが本来の先生なのかもしれない。
 運動部の活発系って何気に苦手だけど、気がつくと先生の姿に目がいってしまう。見惚れている自分に気が付くたびに試合に視線を戻す。

 結局、ちゃんと観ていないので試合内容は分からないけど、皆の様子からすると負けたらしい。気まずいから黙って帰ろうとしたら新田さんが駆け寄ってきた。
 「応援に来てくれたのにごめん。レモン美味しかった。マジありがとう! まだ残ってるから今度洗って返す」
 先生に会う為の口実で作ったから、喜ばれるのは申し訳ない気もする。
 ふいに新田さんが結んだ唇の端を持ち上げて何か含みがあるような顔をした。
 「そういえば春ちゃん、コーチのことずっと見てたよね?」
 ヤバ、分からないようにしてたつもりだったのに……気づかれてたなんて。なんとかしないと。
 「なんか、今までと全然違うから、この人おもしろって。そのうちホントに別人じゃないの? とか思ってずっと間違い探ししてた」
 言い訳、苦しいかな。新田さんは視線をちょっとだけ斜めに上げた。
 「あーそれ分かる。私らも昨日、え? この人誰ってなったもん」
 「だよね。ホントにあの実習生の人でいいんだよね?」
 新田さんは「あははは」って笑って頷いた。良かった、ごまかせた。
 「春ちゃん、とっちゃダメだからね」
 冗談なのか本気なのか分からないような真顔で言われた。
 「なにそれ? わたし、あの人から嫌われてると思うけど」
 もしかして追及が止まらない感じ? そう思った時に助けの声があがった。先生が大きな声で新田さんを呼んだ。これで解放される。
 でも、先生と目が合うと、「夏月さん、差し入れありがとう!」って、まさしく満面の笑みですって顔して大きく手を振ってきた。
 「これって嫌っている人の態度?」
 なんて間が悪いんだ。こんな時こそ素っ気なくしてくれないと。
 「差し入れが効いたんじゃない。わたしは興味ないし。それより戻った方がよくない?」
 新田さんは頷いて手を挙げて駆けていった。
 ―― 【新田京佳要注意人物確定】なんだこの漢文みたいなの。
 それはそれとして、絶対にバレないようにしないと。明日から気を付けなくちゃ。


 翌日の月曜日、先生を見かけることはなかった。同じ校舎の中にいるんだって実感もわかない。なんのための学校事務のバイトなんだろう?
 夜にLINEがきた。
 『明日のお昼は一緒に食べましょう』
 『無理でしょ』
 『今日一日リサーチして良いところを見つけました。ルービックキュー部の二つ先、突き当りの部屋は使われていません』
 先生、やるじゃん!

 午前中の授業が終わった瞬間、教室を出て指定の部屋に向かった。一緒にいられる時間は30分。わたしの気持ちが先生に会いたがっている。廃部寸前の部室が並んでいるこの廊下は放課後以外めったに人がこない。シャッター商店街とか呼ばれているみたいだけど、恋する二人の逢瀬にはぴったりな場所だ。扉を開けると読んでいた本から顔を上げて先生がほほ笑んだ。やっと二人になれた。床に置かれた扇風機がゆっくりと首をふっている姿さえ可愛く見える。
 わたし達は机をつけて向かい合わせなってご飯を食べた。
 「昨日は先生らしさいっぱいだったと思う」
 体育館で見た時は別人だって言ったら照れくさそうにはにかんだ。
 「そうかもしれませんね。バレーボールとは距離を置くつもりだったんですけど、あっという間に熱が入ってしまいました」
 「どうして?」
 「いつか気持ちの整理ができたらお話しさせてください。どう伝えたらいいのかまだ自分の中で折り合いもつかないので」
 「うん。その時はちゃんと受け止めるね」
 先生は頷きながらほほ笑んだ。優しさにほんの少しの哀しみが混ざったような目だった。先生もわたしと同じなのかもしれない。何かを抱えていて、それをどう打ち明けたらいいのか悩んでる。
 「あ、日曜日は部活ないのでどこかで会いましょう」
 「ホント!」思わず大きな声がでた。
 「でも、私たちは目立つので誰かに見つからないか心配です」
 確かに、先生はデカいし、わたしは金髪だから目立たない要素はこれっぽっちもない。でも、
 「それなら大丈夫。良い手があるから」
 そう、わたしには美和先輩と付き合っていた時に買った清楚系な服と黒髪のウィッグがある。
 「先生はどっか行きたいとこあるの?」
 「夏月さんは、お蕎麦は食べられますか?」
 「わりと好きだよ」
 「では、決まりですね」
 昼休みが先に終わる先生が立ち上がる。わたしも立って扉のところまで見送ると、後ろに回り込まれて抱きしめられ、右の頬にキスされた。わたしは向き直って抱き着き、今度は唇と唇を触れ合わせた。学校でするキスは直ぐ近くで打ち上げ花火があがっているみたいに胸に響いた。

 この時から、この部屋はわたしたちの密会場所になった。毎日一緒にお昼ご飯を食べ、抱きしめ合ってキスをする。充実と一緒に先生への気持ちがコツコツと積み重なっていく。

続く

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※ 画像と記事は関係ありません。画像はAIアプリを使って生成したものです。