好きな人を独り占めできない 💞L恋小説 春の晩夏16💞

L恋小説

💞L恋小説💞 春の晩夏16 好きな人を独り占めできない

 そして金曜日。先生の教育実習最終日がやってきた。顔を合わせる機会は減るけど二人の時間は増えるよね?
 明日は先生の部屋で会うことになっている。この前はカッコつけたけど、今度はエッチしたいな。あの黒のブラパン着けていこ。なんかワクワクしてきた。9月も20日過ぎたけど今年の夏はまだ終わらない! 

 帰りの会で先生が教壇に立った。
 「あっという間の二週間でした。お陰さまで実習期間を無事に終えることができました。皆さん、暖かく接してくれてありがとうございます。心から感謝しております。来年度から教師として赴任する予定です。ただ……」
 先生が言葉を止めて、教室を見渡した。そうそうこれこれ、変な間を開けるんだよね。なんか懐かしさみたいなものを感じる。
 「来週から、特別にアルバイトで事務職員をさせて頂くことになりました。バレーボール部のコーチもします」
 え? どういうこと? そんな話、聞いてないし――
 皆も理解できないらしく反応が出てこない。
 一番に声を上げたのはバレーボール部の人だった。ガッツポーズをとって立ち上がり嬉しそうに手を叩いている。
 遠慮がちに手を挙げた人が先生に指された。
 「あの、美術部は……」
 「部活はバレーボール部のみになります」
 がっかりだ。質問した人も落胆している。一体何があったんだろう? やっぱりこの人のこと分からないかもしれない。 

 放課後の美術部でもみんなの反応は同じだった。どっちにしても今日までだったんだからまた会えることに少しだけ嬉しそうにしているけど微妙な感じだ。今日は準備室に一人ずつ呼ぶことはしないで皆の席を回って一人ずつ簡単な話をしている。
 スケッチブックに『どうしたの?』って書いて待っていたけど、時間切れでわたしの席には来なかった。なんかモヤモヤする。皆で写真撮ろうってなりそうだったから速攻で帰った。

 夜にLINEが来た。先生だと思ったら新田さんだった。先生がバレーボール部のコーチをすることが伝わっていて、ウザいくらいスタンプいっぱいで喜びを表現していた。先生にベタベタなつく姿が想像できる。なんか嫌な感じなんだけど。
 
 先生から電話がきたのは夜の10時だった。
 「なんで言ってくれなかったの」思わず不機嫌な声がでた。
 「夏月さんと顔を合わせる時間を減らしたくなくて実習期間を延長できないかと掛け合ったのですが許可は下りませんでした。そこでなんとか事務のバイトをしたいと申し出たところバレーボール部のコーチをするならと言われてしまいました。来年度から教師として赴任することを考えると断れませんでした。夏月さんに言わなかったのは最初はサプライズにしたかったからです」
 「……。まあいいや。明日、会った時に話そ」
 「それが、明後日、本校の体育館で練習試合がありまして、その為、明日からコーチをしなければならなくなりました」
 「何それ?」
 「本当にごめんなさい」
 「もういい」
 わたしは通話終了ボタンをタップしてスマホをベッドの上に放り投げた。

 美和先輩と付き合っていた時は先輩の夢の為に会えなくても我慢できた。先生だって美しい日本語を伝えたいから教師になるって大事な夢を同じように持っているのに、何故か聞き分けのないわたしがいる。なんでだろ? 
 久しぶりに屋上に行ってみようかな。

 マンションの階段を、もったいぶってのぼってみる。見上げなくても空が視界に入ってくるこの場所は、密かなお気に入りだったりする。月がやけに明るかった。そのせいで星はあまり見えないけど、先生の住んでるアパートの先にある山の影が遠くにくっきりと見える。360度ぐるっと見たいものを見ることができるのに、わたしは先生が居る方角だけをじっと見つめている。これって、わたしは先生のことをちゃんと意識してるってことだよね。
 
 投げ出さないで考えた。そして、なんとなく思った。先生はわたしのことを本当に好きなのかなって。
 あの雨の日になんで声さえもかけてくれなかったんだろう? いつ何がきっかけでわたしのこと好きになったんだろう? そう、そういう事だよね。なんかわたしの中で先生に対するいくつかの何故があるんだろうな。それが分かってちょっとスッキリしたかも。今度ちゃんと聞いてみて違和感をなくそう。

 夜中に長文のLINEが来た。何度も謝っていた。先生の重々しい謝罪の言葉がウケる。『こっちこそごめんなさい』って返しておいた。
 そして、これしきでへこたれない15のわたしです。昨日、お姉ちゃんがはちみつをいっぱいもらったから、それを使ってレモンのハチミツ漬けを作って明後日の試合の時に差し入れちゃお。新田さんにこの前のお礼って事にすれば、わたしが行っても誰も変に思わない。めちゃ名案じゃん!
 この時期、国産レモンは手に入りにくいから外国産でなんとかしなくちゃ。お姉ちゃんにこの前のギョウザくれた人にお礼で作って行きたいって言ったら、ハチミツたっぷりくれてワックスの落とし方も教えてくれた。重曹とあら塩を水で溶いたやつでゴシゴシ洗ってよくすすぐ。念のために二回。そういえばバレー部の人って何人いるんだ? まあいいか。タッパー三つ、めいっぱい作って冷蔵庫で寝かせた。

 日曜日の午後、体育館に行った。集まっている部員の人は三年生が引退したから20人くらい。よかったレモンは余裕で足りる。
 先生がわたしを見て目を見開いた。今日、ここに来ることは言っていない。この前の仕返しサプライズ成功だ。よく見たら口が半開きでまさしくポカーンって表情で顔ごと動かしてわたしを見ている。その顔、笑える。
 ストレッチしている新田さんと目が合った。小さく手を挙げたら駆けよってきた。
 「春ちゃんどうしたの?」
 「この前のご飯のお礼」
 わたしはタッパーを差し出した。新田さんは即座に開けると「マジかぁ!」って大きな声を出した。
 「これ、春ちゃんが作ったの? ヤバ!」
 「こんなの簡単だよ。ちょっと時間あるから見ていこうかな」
 「うん! 応援していってよ」
 わたしは頷いてちょっと離れた場所に座った。見るのは試合じゃなくて先生なんだけどね。

 新田さんの周りに輪ができて「すっぱ!」とか「うま!」とか大きな声がする。先生が輪を外れてわたしの所にきた。
 「夏月さん、嬉しい差し入れをありがとうございます。ところで、新田さんと仲いいんですか?」
 「先生、妬いてるの?」
 「そんなことありません」
 小声だけどムキになっているような口調だった。ほっぺちょっと膨らんでたよね。なんかウケる。
 「もうすぐ試合始まるので応援してください」
 わたしは頷いた。先生はわたしの肩に触れ「大好きです」ってささやいて戻っていった。
 うん。取り合えず来て良かった。

続く

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