💞L恋小説💞 春の晩夏13 恋人の呼び方
二人並んでノートパソコンで浮世絵を見る。色々と解説してくれるのは良いんだけど言葉が角ばっていて堅い。これで冷たかったらあずきバーだ。
「もっとくだけてしゃべりません?」
カノジョはほほ笑むと返事の代わりにYouTubeを開いて音楽を再生した
「中島美嘉さんが歌う朧月夜です」
誰それ? 「菜の花畠に入日薄れ~~」ここ聞いて分かった。小学校の音楽で歌わされた記憶がある。なんとなくかすれていて甘い優しさを含んだような声。半端なく心地いい。
「いわゆるカバーです。それより、この歌詞、美しくないですか?」
別のウインドウに表示された歌詞を見た。それを隣で解説してくれた。なんか嫌じゃない切なさ。奥の深さ、この唄作った人は天才だ! あの頃、こんな意味知らないで歌わされてた。
カノジョはベッドの上に膝立ちになって窓を開けた。すぐ脇に大きな葉っぱの畑があって、広い丘があって、その後ろに山が見える。
「あそこの丘が菜の花畑です。春になると幻想的で綺麗です。夕方に、その景色をみながらこの曲をかけます。日本語の美しさを強く感じる時間です。大学を卒業したら現代文の先生になって日本語の美しさを伝えたい」
そんな考えを持っていたのか。尊敬しちゃいそう。
「もう一回かけていい?」
返事を待たずにリピートをクリックした。隣に並んで窓枠に手をついて、菜の花がない景色を見つめた。前奏の途中でバイオリンの音がした瞬間にしびれた。歌い出しも最高だ。優しく語りかけるように切々と歌詞が積み上げられていく。目の前の景色に歌の中の景色が重なる。さっき教えてくれた意味もかみしめる。夕方に聞いたら泣いちゃうかもしれない。
これが前に言っていた『感じて味わう』って感覚なんだね。
この人のこと、なんて呼ぶか決まった。
「春になったら一緒に見ましょう」
「はい。先生」
「夏月さん、私は」
「未来の先生じゃん。略して先生。実習生って呼ぶの変だし」
「名前で呼んでください」
「わたしが名前で呼んだら変に思われるよ」
「考えすぎです」
「いいの。もう決めた」
「どうやら致し方ないようですね」
「あとさ、もうちょっとでいいから言葉くずさない? 正しさイコール美しさじゃないと思うんだ」
「そうですね。言葉も生き物です。環境に適応するように変化していますからね。では、努力します」
当分、カクカクしたフォントでしゃべるんだろうけど、まあいいや。それでも先生の隣が心地よくなってきた。
帰りに100均に寄ってアクリルのフォトフレームを買った。引き出しに放り込んだ先生からもらった入道雲のポストカードを入れて机の上に飾った。
そして、月曜日になった。二人の関係はもちろん秘密だ。他の人たちは、相変わらず「瑞希ちゃん」とか呼んで懐いている。その様子を見るたびに優越感が蓄積されていく。
昼休み、食べ終わったお弁当をランチマットに包んでいると、同じクラスのバレーボール部の子に声を掛けられた。
「あの、夏月さん、京佳が呼んでるんだけど」
「キョウカって誰?」
目線を追いかけると美術館に来ていた服装のダサい人が扉の外にいた。わたしに何か用? 取り合えず廊下に出た。
「私、見てたんだけど」
前置きも何もなく切り出された。先生と二人でいるのを見てたってこと?
「土曜日、美術館で」
バス停かな……。キス見られた⁉
「それで、悔しいんだけど、お願いがあって」
別れてくれ。とか言われる?
「ねえ、聞いてる?」自分の中ではちゃんと聞いてる。でも、顔に出さないようにして出方をうかがっていたからシカトしているように感じたかもしれない。
「ああ、ごめん。結局どういう?」かなり曖昧な聞き方をした。
その人は自分だけで頷くと「悪いんだけど、こっちで」って歩き出した。
教室の前であの話されても困るから、つられて歩き出す。
何を見たのかも分からないけど、何だとしてもしらばっくれる? もしかして、黙っていて欲しかったら……みたいに脅される? あれこれ考えているうちにルービックキュー部を始めとする少人数な部活の為の小さい教室が並ぶひと気のない廊下にきた。
「知ってるか分かんないけど、私、1年A組でバレーボール部の新田京佳」
バレー部ってことと同学年ってことは知ってる。なんとなく頷いておく。名前はどうでもいいんだけど、続きがなかなか出てこない。我慢できないから聞いてみる。
「見たって、なんのこと?」
「あぁ、見たっていうか、見てたって言うか、でも、見たでいいのかな。夏月さんのこと」
わたしを見た? 見てた? って……え! まさかだけど告白される? 先生のことを好きなんじゃないの?
「単刀直入に聞くわ」
決意がみなぎったオーラを感じる。思わず喉が上下して、ない唾を飲み込んだ。
「この前の私ってダサい?」
―― は? 自然と首が斜めになってアゴが突きでた。
「だから、この前、美術館行ったじゃん。その時の私なんだけど……」
語尾は消え入りそうだった。言いたいことは分かったけど、何故それをわたしに聞く?
「気ぃつかわなくていいから。引き分けみたいなの嫌いなんだよね。勝ち負けしっかり付けたい人だから」
そうは言われても……。顔色をうかがいつつ言葉を探した。
「お洒落だね。とは言いきれない、かな」
模範解答はひねり出せなかったけど、10対0じゃなくて6対4くらいの響きで勘弁してほしいと思う。
「やっぱり、酷かったかぁ」
結局なんなんだろう? この人とこんな会話する意義が見いだせない。
「もういい?」
「ちょ、待って。お願いがある」深呼吸を挟んで言葉が続く「アドバイスしてほしい」
「はぁ⁉」
「私の周りの皆はお洒落とかあんま興味ないっていうか、センスないっていうか。美術館で見てたらやっぱりあなたが一番、お洒落って思ったから」
この人がなんでお洒落に目覚めたのか言われなくても分かる。先生に気に入られたいからに違いない。
両手で手をつかまれて凄まじい目力で見つめてくる。
「お願い!」
「わたしよりもお洒落な人って沢山いると思うけど、それにわたしはギャルっぽい系だし。もしかしてギャルに変身したいってこと?」
多分、コンセプトが固まっていないんだと思う。考えもしなかったって顔をしている。そこをちょっと聞いてみる。
「一応、ジャンルっていうか目指す系統があるよね? 可愛い系とか、綺麗め系とか、清楚系とか、やんないと思うけど地雷系とか、そういうの。でも、自分に合った服装がいいと思うけど」
「そう、それ! それが言いたかった! わたしに合うお洒落がしたい!」
運動部っぽい元気いっぱいな声がわたしを圧倒する。しまいにはパチンパチンて2回音を出して手を合わせ神社のように拝まれた。
断り切れず、部活の後で『しまむら』に付き合うことになってしまった。
続く
中島美嘉さんの曲名は「朧月夜~祈り」です。
原曲に詞が追加されています。
作中で紹介したように良い曲ですので、興味がある方はYouTubeなどで聴いてみてください。
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