バス停の告白 💞L恋小説 春の晩夏11💞

L恋小説

💞L恋小説💞 春の晩夏11 バス停の告白

 コツコツコツ。堅い床に当たる堅い靴底の音が近づいてきた。
 「申し訳ございません。お時間を過ぎてしまいましたので……」
 職員の人がすまなそうな顔で語尾を濁した。閉館を10分ほど過ぎていた。実習生の人が頭を思いっきり下げて謝った。
 特に会話もないまま門へと続く石畳の道を同じ速度で歩いた。外はまだ明るくて当たり前のように暑かった。通りを渡ったところに駅方面へと向かうバスの停留所がある。美術館の前だからか、芸術してますアピールをするかのように木の切り株みたいなオブジェが並んでいる。
 時刻表を確認すると5分前に出てしまっていた。下りのバスはまだ本数があるけど、上りは少ない。次は1時間半以上先だった。そういえば喉が渇いた。家を出る前にアイスラテを飲んでから水分を口にしていない。通りを戻ったところにある自販機で何か買おうかな。
 「夏月さん、付き合って欲しいんですけど」
 カフェでも行くのかな。バスまで時間あるし、歩いて帰る手もあるけど、どっちにしても駅までは一緒に居ることになるわけだし、カフェに入って涼しい所で待つ方がましか。
 「あー、いいですよ」ちょっとダルそうに答えた。
 「本当ですか!」
 はしゃぐような声。ここまで明るい声は初めて聴くかも。キャラ変? 取り合えずクールに返す。
 「はい」
 「良かったぁ。嬉しいです」
 実習生はわたしの腕に腕を絡めてきた。
 「え⁉ なに?」さっきのクールなわたしは消え失せて、驚きが隠せない声がでた。
 「恋人だったら腕くらい組みますよね。あ、でも手をつなぐのが先かな」
 「こいびと……?」
 「付き合うって言ってくれたので」
 「はぁ⁉」
 わたしの驚きは、通りを渡ってまだ閉まっていない門を突き進み、遊歩道の真ん中を堂々と駆けてレンガ色の建物にぶつかって粉々になった。こんな大きな声を出したのはいつぶりだろうか?
 それにしてもなんだ、このコントでやる詐欺みたいなやり口は。思わずあたりを見回した。わたしをからかおうと実習生と共謀した美術部の人たちがどこかに隠れて見ているんじゃないかと思ったからだ。
 かなりおもむろに見回したので、どうかしたのかと聞かれた。口角を上げてほほ笑んでいる顔を見つめてみる。これは作られた笑顔なのか、相変らず読めない。もう一度、周りを覗う。隠れてこっちを見ることができそうな場所には誰もいないようだ。
 「冗談ではないですよ」抑揚のない優しい声だった。
 「でも、どうしてですか? わたしのこと嫌いなんじゃないんですか?」
 「嫌いな人に告白なんてしません」
 わたしの目をしっかりと見据えてくる。しつこいけどもう一度、今度は身を乗り出して周囲を見回す。やはり誰かが潜んでいる感じはしない。
 ん? そういえば、わたしはなんで即座に断らないんだろう? 誰かが居ようが居なかろうが、ないがしろにしちゃえばいいだけの話じゃん。でも、わたしは、そうせずに戸惑ってる……。
 突然、ふわっとした感覚に包まれた。後ろから抱きしめられた。
 「実習生が生徒に手をだしていいんですか?」
 「倫理的には良くありません。でも、私は夏月さんと特別な関係になりたいという結論に達しました」
 なんだそれ。どれくらいの期間をかけて考えていたんだ。そして、こんな時にまでメンドクサイ言いまわしをしてる。ウザさを通り越して笑える。
 「付き合うってどういうことか分かってますか?」
 「おおよそ理解しているつもりです」
 またしても変てこりんな返答だ。
 「あの、恋愛下手ですか?」
 「上手ではありません」
 不意に、わたしの中にある矛盾をもう一つ発見してしまった。力を入れなくても振りほどけるくらいの力加減でわたしを包んでいる二本の腕から逃げないのはなんでだろう? 断ることもせずに、会話をしているのはなんでだろう? もしかしてわたしは頷けるような言葉を引き出したいのだろうか?
 「すみません。想い余って取り乱しました」
 がっかりと反省が強く滲んだ声だった。もしかしたら本気の告白だったのかもしれない。腕が解けて背中に感じていた体温が離れた。
 わたしは振り返って一番近くにある切り株みたいなオブジェに乗った。10センチ以上ある身長差がゼロになった。いや、わたしの方が数センチ高い。目の前に教室の席から見上げてみるのとは違う顔があった。切れ長の目を縁どるまつ毛が長い。緊張がほんのりと伝わってくる。固く閉じられたような両肩をつかんでキスをした。張りがあるけど柔らかい唇だった。
 実習生は直ぐに顔を離した。驚きが表情に滲んでいる。わたしをからかおうとか、騙そうとしているならこれで諦めるだろう。
 「わたしと付き合うってこういうことですよ」
 俯いている顔を覗き込んだ。オレンジ系のリップグロスがついた唇が震えている。聞き取れない位のかすれた小さな声がするけどなんて言ったのかは分からない。
 バランスが崩れたから円柱から飛び降りた。元の身長差に戻った途端、抱きしめられた。さっきよりも強くて振りほどけないくらいぎゅってされた。
 「よろしくお願いします」
 本気で言ってる? 冷静に考えてみれば、この人がわたしを騙すメリットはない。この様子なら主導権は断然わたしにある。それに、学校中って言っていいくらい人気のある人と特別な関係って、皆が欲しがっているけど高くて手に入らないブランド品を実はわたし持ってます、みたいな優越感じゃん。香耶ちゃんと回復する気配はまるでないし……。
 損得勘定の結果がでた。暇つぶしに付き合っちゃうのも有りかもしれない。
 「分かった。いいよ」居場所を失くしてブラブラしていた手を持ち上げて背中と頭を撫でた。ブラウスの手触りが滑らかで心地いい。
 やっと大きな身体が離れた。その人は目の下に薄っすら溜まった涙を指でぬぐった。
「なんで泣いてんの?」
「うれしくて」

 夏の余韻に引っ張られるように『カッコ仮』みたいな恋を始めてみることにした。

続く

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