その人は、わたしと目が合うと一瞬だけ眉をひそめた。
わたしのことキライだ。そう感じる。
その人は、何事もなかったかのように笑顔を作って教室をゆっくりと見渡した。
皆は興味深々。隣の子と「可愛いよね」とか囁きあってる。
その人の顔立ちは整っているけど、唇がぼてっとしてなんかあか抜けてない。そして、なにしろ背が高い。173センチとか言ってる。高校時代はバレーボール部だったそうだ。
誰かが「だからか背が高いのか」って言ったけど、それはおかしい。バレーボール部だから背が高いんじゃなくて背が高いからバレーボール部に入ったんじゃない? そんなふうに考えてしまうひねくれ者なわたしです。
それにしても話が真面目すぎで難しすぎ。食いついたのは最初だけで、だんだん皆が引いていく。
そうしたら、「あ……」って言って、なんか話の途中で止まって固まって凝固した。
―― なんだこの人。
その人は目だけ動かして教室の中を見回すと、くしゃっとした笑顔で言った
「私、名前、申し上げてなかった」
どっと笑いが起きた。良かったですね。皆のこと掴んだみたいです。
艶のある長い黒髪をひるがえして黒板に向くと、綺麗な字で名前を書いた。『影山瑞希』この人は卒業生で教育実習生だったりする。
「宜しくお願いします」
そう言って頭を下げた。教室の殆どがはしゃいでいる。ちらっと香耶ちゃんを見てみると、温和な顔で微笑んでいる。目が合ったら小さく指を上げて目で頷いてきた。わたしも目で頷き返した。
今日のお弁当は二人分作った。ハーブを効かせた若鳥の唐揚とウインナーのトマトチーズ焼きと茸のマリネ。香耶ちゃん気に入ってくれるかな。
一学期は毎日お弁当を持ってきていたのに、二学期になったらパンとかおにぎりばかり食べている。実は、夏休みに入って直ぐにお母さんが入院してしまって、果樹園だけじゃなく家の事もしなくちゃいけないそうだ。お弁当まで作っていられないから購買で買ったりしているんだって言った。
香耶ちゃんには二度も助けてもらったから、お礼ってことでお弁当を作ることにした。誰かの為に料理をするのは楽しかった。
昼休み、わたしたちは香耶ちゃんが所属している廃部寸前なルービックキュー部の部室でお弁当を食べた。
わたしの味が気に入ってくれたみたいだ。「美味しいっ!」って一体、何回言うんだろう。言われるたびにわたしのほっぺが持ち上がってくる。
香耶ちゃんの口に合ったらしく、アルミカップの折り目に貼りついた薄っぺらなオニオンスライスまで丁寧にとって食べている。
香耶ちゃんとは、まだ美和先輩の事とか話をしていない。有耶無耶にしようなんて考えてるわけじゃなくて、香耶ちゃんが忙しいからにほかならない。この話は一度に全部しっかりと話したいから学校じゃなくて別の場所がいい。
香耶ちゃんは空になったお弁当箱をランチマットに包みながら言った。
「もうじき桃も終わるし、お母さんも退院できそうだから、そしたらゆっくり話そう」
「うん。お母さん早く良くなるといいね」
「ありがとう。あ、今度、桃食べに来て。今年は甘味と酸味のバランスが良くて美味しいんだ。果樹園の敷地内で姉がカフェをオープンさせたんだけど桃とヨーグルトのスムージーが人気なんだよ」
実は既に行って、そのスムージーも飲んでるんだけどね。なんか懐かしいな。また行ってみようかな。秋姉ちゃんがあの桃すごく気に入ってたし、青いバラとかのお礼もしてないから香耶ちゃん家の桃を買うのもいいかもしれない。今日の放課後に行っちゃおうかな。楽しいことを想像したら気持ちが軽くなった。
並んで廊下を歩いていたら向こうからあの人が歩いてきた。香耶ちゃんは会釈した。すれ違ってから声をかけられた。
「夏月さんはどうして髪染めてるの?」
「あー、ギャルだから?」
別にギャルなんて自覚ないし、自分ではどうだっていいことだけど。だから疑問形にしておく。
「先生。校則ではうちの学校は染めても問題ないんです」
直ぐに香耶ちゃんがフォローをいれた。
「ええ、そうですね。私が在校していた時もそうだったので知っています。私は染めていることを咎めているわけではなくて、単純にその理由を知りたかったから質問をしたんです」
なんかこの人メンドクサイ。
「宮下さん、自己紹介でも申し上げましたが、私は先生ではなく実習生。すなわち生徒です。なので影山さんとか、影山先輩などと呼んでください。なんなら下の名前の瑞希でもかまいません」
「すいません」
香耶ちゃんが申し訳なさそうに頭を下げた。
「それで、夏月さんどうしてなのか教えてもらえますか?」
え? まだ聞くの。なんかしつこいんだけど。
「先生じゃない人に答える必要あります?」
思わず生意気な言葉が出た。
「差しさわりがなければで構いません」
「じゃあ、黙秘権で」
その人は一瞬真顔になると次の瞬間、自己紹介の時のように顔をくしゃっとさせて笑顔を見せた。
そうだ、これ。なんか計算されているみたい。気に入られようとしてるのかなんなのかは分からないけど。別にどうでもいいや。この人だってわたしのこと嫌いみたいだし、小癪な小娘くらいに思ってるに違いない。
「先生、あ、えと、影山先輩。私たち授業があるので、これで失礼します」
香耶ちゃんはそう言うと、わたしの腕を組んで力強く歩きだした。
この実習生のことをなんだコイツとか思いながら、腕にあたる香耶ちゃんの胸の感触にちょっとだけエッチな気分が芽生えたわたしです。
続く
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