先生とのもどかしい関係 💞L恋小説 春の晩夏15💞

L恋小説

💞L恋小説💞 春の晩夏15 先生とのもどかしい関係

 チャーハンとお味噌汁はなんとか食べきった。スカートのウエストをここまで緩めたのは記憶にないや。手をつけなかったギョウザとお漬物は更に倍になってスーパーのお惣菜みたいにパック詰めされた。小母さんの運転する車の後部座席に新田さんと並んで座ってマンション前まで送ってもらった。ギョウザも送りも断ったけど、聞き入れてもらえなかった。こんなに家族ぐるみで親切にしてもらうと後ろめたさが際立ってくる。 

 新田さんのことは先生に言うべきだろうか? フォトフレームの中の入道雲を見ながら考えた。この雲に負けない位に膨らんだままのお腹が苦しい。チャーハンが消化されるのと結論に達するのとどっちが先だろう? 結局のところ、消化速度に思考速度が勝利した。LINEは交換したけどクラスも部活も違うからこれから絡むことはないだろう。だからこのまま保留にしちゃおう。実習が終わったら新田さんも先生のことは忘れていくよね。という事にしておく。

 そして火曜日の放課後、相変わらず美術部は大盛況。先生が来る前は3、4人だったのに20人位が参加している。先生の人気は持続中だ。
 最初は先生がモテることに悪い気はしなかった。でも、わたしは拗ね始めた。皆とは楽しそうに話すのに、わたしとは目も合わせない。「今までどおり」って言ったのはわたしだけど。独占禁止法を撤回したくなった。
 午後4時、部活の開始時間になると先生は取り囲んでいる人たちを席に着かせ、いつものくしゃっとした笑顔を作った。
 「今日は個人面談しましょう。まだ話していない人が沢山いますよね。なので前回話していない三年生から順番で、勿論、前回した人も。一人5分くらいですけど」
 「ですけど」の「ど」で目が合った。これってわたしと二人になるためなのかな。そう思ったらテンションが激しくあがった。割とちょろいわたしです。

 先生の部屋の窓から見た景色を描きながら呼ばれるのを待った。どうせだから菜の花畑も書き込んでしまおう。スマホで画像を見つけてそれを見ながら描きあげた。意外と良いデキではないか。「上手く描けてるね」とか言ってくれるかな。見せるのが楽しみだ。
 でも、先生と一対一で話して5分で切り上げる人なんて殆どいない。わたしを含め11人が明日に持ち越しになった。
 部活が終わっても居残り組が先生を直ぐには解放しない。話をする隙はどこにもない。諦めて帰ろうと部室を出た時だった。先生に呼び止められた。
 「そうそう、忘れていました」とか言いながらわたしの前にきてハンカチを差し出した。皆がわたし達を見ている。
 「放課後、夏月さんの席の脇で拾ったものです。夏月さんの所持品ではありませんか?」
 見たことのないハンカチだった。
 「いいえ違います」
 「そうでしたか、呼び止めてすみません。では、明日お会いしましょう」
 先生が離れながらわたしの手に指先でそっと触れた。この為に呼び止めたのか。なんか嬉しくてキュンってした。

 そして、水曜日。もうすぐわたしの順番がくる。昨日の絵を見てもらおう。前に描いた意地悪なやつじゃなくて、今度は二人の優しい時間を描いた。気に入ってくれるかな。準備室のドアが開いた。わたしはダルそうな演技をして席を立った。ドアノブを握ったまま先生が待ってくれている。
 今回も椅子が並んで置いてあった。この前と同じ席に座った。机に置いたスケッチブックは開かれなかった。いきなり後ろから抱きしめられた。きゅんが爆上がりした。背の高い先生が身体を折り曲げてわたしの頬に頬を寄せてくる。
 「5分の全部。このままでいさせてください」かすれた声でお願いされた。
 「うん」嬉しさで声がうわずった。
 目の前の大きな鏡に写る二人の姿を見つめる。すぐ脇にあるドアの向こうには美術部の人たちがいる。自分の意志と関係のないところでドキドキが大きく力強く速くなっていく。ふと、ドアの小窓が目に留まった。
 「先生、窓からこっち見えちゃうんじゃない?」
 先生は、ハッとしてわたしから離れた。
 「迂闊でした。夏月さんを抱きしめたい気持ちが強くて。配慮不足でした」
 わたしたちは姿勢を低くしたまま静かにドアに近づいてそっと部室を覗いた。皆は真剣にそれぞれの創作に打ち込んでいる。先生がその場にしゃがみ込んだからわたしもつられて座った。
 「ここなら覗き込まれても見えません」
 「いや、逆に席にいないの変じゃない?」
 「そうですね。でも」
 先生が傾けた顔を近づけてきた。ちょっと厚みのある柔らかい唇を受け止める。何度か触れ合わせて軽くついばんだ。先生は身体を乗り出し床に片手をついて深いキスを求めてきた。舌が口の中に入ってきてわたしの舌に触れる。言葉の硬さから想像できないくらいなめらかで情熱的なキス。声が混ざった吐息が口の端から漏れた。お互いが夢中になってずっと触れたかった気持ちをキスにして伝えあった。

 それはいきなりだった。ノックの音でキスは中断された。
 「瑞希さん」部長さんが先生を呼ぶ声がした。
 トキメキとは違うバクバクが湧き上がった。それなのに行動は驚くほど冷静だった。目を合わせて頷きあうと、わたしは扉の影に隠れ、先生は少しだけ間をおいてドアを開けた。
 「瑞希さん、部活終わりの時間ですけど、どうしましょう?」
 「ごめんなさい。夏月さんの生活態度でちょっと長引いてしまいました」
 「あ、そうでしたか」
 あっさり納得したみたい。こういう時、ギャルな見た目は役にたつ。わたしはスケッチブックを摘まんで先生の後ろに立って不機嫌なギャルを演じる。
 「もういいですよね。帰りたいんで」
 「あ、はい」
 先生が身体を捻じってできた扉との隙間からすり抜けるようにして部屋をでる時だった。こっそりと背中を撫でられた。

続く

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