💞L恋小説💞 春の夏⑯ 三角な関係?

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春の夏⑯ 三角な関係?

 食卓の上には晩御飯が乗っている。わたしが作ったチキンのロースト、キノコと大根おろしの和風パスタ、お豆腐で作ったカプレーゼ。暑いのでサッパリ系多めにしてみた。
 「おいしそー」と言ったのは秋姉ちゃんではなく美和先輩だ。 

 本日は八月十四日。お盆の真っただ中。
 お姉ちゃんは一泊だけ東京の実家に帰省している。「二年も経っているし、一泊だけだから一緒に帰らないか」って言われた。秋狼兄ちゃんと冬姉ちゃんには会いたいけど、ほかにあの町に惹かれるものは全くないし、できることなら避けていきたい。

 「まだ春を一人で残すの心配だから今年は止めるか」とか言い出したから説得して一人で帰省してもらった。だって美和先輩と二人きりの夜を過ごせるチャンスじゃん。そうでなければ「どっちでも好きにしたら」って言っていたに違いない。
 久しぶりのエッチを想像し、浮きたっている15のわたしです。

 食事を済ませ、二人でシンクに並んで食器の片付けをする。新婚みたいなシチュエーションなのかな。お皿洗いでこんなに幸せ気分を味わえるなんて思いもしなかった。
 これからシャワー浴びて、パジャマトークして、そして……エヘヘ。
 なんて思っていたのだけれど……

 「ドンキに行ったこと一度もないから行ってみたい」って先輩が言い出した。
 野球のことは良く知らないけど、首位打者の打率をはるかに超える香耶ちゃんとの遭遇率めちゃ高なドンキに二人で行くなんて、戸惑うというか、困るというか、上手く説明できないけど、これは回避した方が良さそうだ。どうやってあきらめてもらおうか?
 先輩は楽しそうな顔をしてバッグから金髪のウィッグを取りだした。
 わたしは観念して先輩にTシャツと短パンとクロックスのサンダルを貸した。どうか香耶ちゃんに会いませんように。
 
 先輩は夜に出かけるのは初めてだって言った。一応、芸能活動しているから気をつけて生きてきたそうだ。だからワクワクしているって言った。そんなドキドキを打ち明けられ、改めて、秘密な関係の二人での夜のお出かけにトキメキを覚えた。
 
 もしも、香耶ちゃんを見かけたら上手いこと先輩を誘導して逃れることにする。なのでいち早く、かつ自然に見つけなければならない。いつだったかテレビで観た切れ者の刑事のように顔は動かさずに目だけ動かして周囲の状況を把握してみる。
 いや、これは難しい。でも、先輩は物珍しそうに店内を堪能しているから少しくらいなら顔を視線の先に向けても平気だろう。アクセサリーコーナーの端に置いてあるサングラスタワーが目に付いた。そうか、サングラスしたら目線は分からない。いやいや、逆に目立つよね。そんな事を考えていると、ふいに先輩が言った。
 「そうだ、もし春ちゃんの知り合いに声掛けられたらどうしよう?」
 え? そう言えば、中高共に一緒の人には、学校の先輩とか友達っていうウソは通用しないし、バイト先の人っていうのも後でバレる可能性大……
 これって、この場を引き上げるチャンスかもしれない。
 「先輩、そうなったら困るから今日は帰りましょう」
 「う、うん」歯切れの悪い返事がくる。
 「どうかしたんですか?」
 「春ちゃんとギャルで会う時に身に付ける何かお揃いの物が欲しくて」
 な、なんて可愛いことを言ってくれるんだろう。小物なら通り過ぎたアクセサリーコーナーがいいかもしれない。そう言って振り返ったら……。

 「春ちゃん」
 あぁ……なんてことを。わたしは真理江ちゃんの事をすっかり忘れていた。
 真理江ちゃんは甘えるような声で、「ドンキくるなら誘ってよ~」とか言って腕を絡ませてきた。
 「ちょちょっと、真理江ちゃん」
 「ねえ、何買いにきたの?」
 丁寧に手をほどいたけど。近い距離のままでどんどん話しかけてくる。まるで先輩が目に入っていないかのような振る舞い。
 「ごめん、今日はこっちと」そう言うのがやっとだ。
 すると先輩はわたしの肩に手を置きながら「春の東京の友だちです」って言った。
 名前、呼び捨てになんて初めてされたんですけど。
 「私は春ちゃんと仲良しの真理江です」
 真理江ちゃんは真理江ちゃんで、わたしを引っ張ると横に並んで腕を組み、仲良しって言葉を強調して、張り合う感じで自己紹介した。
 先輩は顔色ひとつ変えずに「どうも」って返したけど、なんか、ギクシャクした空気が漂い始めている。そこにある最新型空気清浄機をもってしてもこの気まずさをろ過するのは難しい。どうしたらいいんだろう?

 「私、トイレ行ってくるから、ちょっと話してなよ」
 表情が読み取れなかったけど、いつもの先輩よりちょっとキツイ感じがした。なんでこうなるかな。お腹痛いとか仮病を使ってでも出てくるべきじゃなかった。
 先輩がトイレに向かうと真理江ちゃんが顔を近づけてきた。
 「東京の友達ってことは、今夜は泊まるの?」
 「え、まあ、ね」
 歯切れの悪い答えをしてしまったから逆に勘ぐられた。
 「エッチしないよね?」
 ギクッとしたけど、何しろここはしっかりと否定した。

 そうこうしてたら先輩が戻ってきた。
 「もういいや、帰ろ」
 こんな声を先輩が出すのかっていうくらい投げやりな響きがした。

 かなり気まずい帰り道。なんかこのままじゃいけない気がしてならない。
 わたしは先輩の手首をつかんで走り出した。来た道を走って戻る。なんて無駄なことをしているのだろう。
 でもいいのだ。青春とは無駄に走ることである。なんだか日増しにダサいことを言うわたしになっている気がする。
 「どうしたの?」
 先輩の声が動揺している。でも良い。ハッキリしていることは、このままうやむやにしたらいけないってこと。

 ドンキから出てきた真理江ちゃんを発見した。乱れた息を整える。ちゃんと伝えなくちゃ。
 「真理江ちゃん。ごめん。わたし、この人と付き合うことになった」つないだ手を見せて言った。
 あまりにも唐突な宣言に戸惑うかと思われたけど、手をとって走ってきた姿を見た時点で感じたものがあったんだと思う。真理江ちゃんは冷静だった。
 「そっか、この前変だったのは、この人が原因か」
 そして、わたしと先輩を交互に見ていった。
 「美人なギャル同士お似合いだね」
 「ありがとう」先輩がほほ笑んで返した。

 隣を歩く美和先輩が腕を組んできた。なんだか一皮むけた15の夜。堂々と胸をはって夜空を見上げる。
 どこにあるのか不明だけれど、月が上手い具合に雲を照らしている。

 それにしても、先輩の胸が肘に当たって……

続く

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