香耶との複雑な関係 💞JK百合小説 春の晩夏8💞

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💞L恋小説💞 春の晩夏8 香耶との複雑な関係

 本日、香耶ちゃんはお休みらしい。廊下側の一番後ろの席が空いている。来るかと思ったLINEもこなかった。
 1時間目、実習生が担当する現国の授業が始まった。分かり易くてたまにユーモアを入れているので、皆からの評判はいい。案の定、「瑞希ちゃん」とか呼んで仲良くなっている生徒が何人もいる。
 わたしを避けているのか目は一度も合わなかった。関わろうとしない事にしたんだろう。別にどうでもいいけど。

 昼休みになった。一人になれるから美術部の部室で部屋中にうっすらと染みついた油絵の具の匂いをかぎながらお弁当を食べた。香耶ちゃんの事を考えてみる。
 わたしを追いかけて家まできて桃だけ置いて帰っちゃったのはなんでだろう? 忙しくなって小父さんから呼び戻されたんだろうか? もしかしたら香耶ちゃんも帰りに雨に降られて風邪でもひいたのかもしれない。でも、この暑さだったらずぶ濡れになっても身体は冷えないよね。もしかして事故にでも遭ったんだろか? 先生に聞いても教えてくれないだろうな。個人情報とかいう融通が利かない壁があるから自分で連絡とるように言われるはず。この状況でわたしから連絡するのは気まずい……。
 ノックがして扉が開いた。
 え? なになになんで? わたしは戸惑った。
 実習生の人が入ってきて、今日初めてわたしの目を見た。
 「宮下さんは入院しているお母さまの容態が悪くなって昨日から病院に行っています」
 「どうして?」
 「朝の会、そして授業中まで、宮下さんの席を気にしていたので」
 ―― 見透かされてる。わたしのことを見ていないと思っていたのに、ちゃんとチェックいれてる。
 「この返答で求めている答えになっていますか?」
 わたしは頷いた。
 その人の扉に伸ばした手が止まった。そして、顔を半分だけこっちに向けた。
 「ちなみに、容体は回復したので、午後からくるそうです」
 扉が静かに閉まった。
 香耶ちゃんのお母さん、大丈夫なんだ。良かった。
 でも、香耶ちゃんと顔を合わせるのはやっぱり気まずい。授業が始まるギリギリに教室に戻ろうかな。そう思っていたら扉が開いて香耶ちゃんが入ってきた。
 「ここに居るって影山さんが教えてくれて」
 心の準備ができていないのに、あの実習生、余計なことをしてくれる。
 「春ちゃん、写真勝手に撮ってごめんなさい」
 わたしに身体を向けて、髪のサイドが顔を追い越すくらいまで頭を下げた。なんて返事したらいいんだろう?
 香耶ちゃんはスマホ画面をわたしに見せた。来るときに準備してたんだろう。窓際の席で頬杖をついて外を見ているわたしの画像が表示されていた。
 写真に撮られた。その事実がまだ解決できない過去に触れて気持ちが沈む。
 「透明感が凄くて、どうしても撮りたくなってQRコード読み込むふりして撮っちゃったんだ。本当にごめんなさい」
 香耶ちゃんはさっきよりも深く頭を下げた。黒いセミロングの髪の毛が床に向かって垂直に伸びている。その髪が持ち上がってわたしの写真が削除された。
 「嫌だよね。好きでもない奴が勝手に撮った写真持ってるなんて。でもこれで許してくれるかな?」
 「違う香耶ちゃん。好きでもない奴じゃない。香耶ちゃんは、夏休みが始まった時、ときめきをくれた人。初めてのキスをした人。そして、わたしを二回も助けてくれた人」
 わたしは、ちゃんとその時の感情を伝えた。
 「でも、なんていうか、わだかまりみたいなのが、なんか消えない。なんか、許すとかそういう事じゃないんだと思う」
 上手くは説明できない。やっぱりあの話を香耶ちゃんにしたほうが良いんだろうか。そう思ったけど、チャイムにやめておけと言われた。
 「戻ろっか、教室」
 香耶ちゃんに促されて廊下を並んで歩いた。
 「もう、戻れないんだよね? 私、距離をとった方がいいよね」
 前を見たまま香耶ちゃんが言った。
 そういう事じゃないって思うけど、なんて説明したらいいんだろう? もたもたしているうちに香耶ちゃんから話が締めくくられた。
 「もし、私が必要な事があったら言って」
 返事はできなかった。なんとなく突き放された気がした。
 香耶ちゃんがクラスの扉を開ける。その背中を言葉が追いかけた。
 「時間が欲しい」
 でも、追いつけなかった。香耶ちゃんを見つけた一人の「宮下さん大丈夫ぅ!」って大きな声に阻まれたから。

 そして放課後。本日火曜日は部活の日。一年生は強制的にどこかの部員にならないといけなくて、わたしは最低でも週に2回、火曜と木曜だけ出ればいいっていう理由から美術部に所属している。でも、ルービックキュー部は月に2回。部員は香耶ちゃんを強引に誘った先輩が一人。そっちにしておけば良かった。
 でも、美術部もいつもいる部員はわたしの他に4人。皆まじめで物静か系。わたしは浮いちゃっているけど適度な距離感でゆるゆるとやっている。

 そんな平和な美術室に異常事態が起きた。あの実習生が入ってきたのだ。
 「こんにちは、教育実習生の影山瑞希です。美術部の担当をさせてもらうことになりました」
 え、なんで? わたしを含めた皆のリアクションだ。
 「本当ですか? バレーボール部じゃないんですか?」
 誰かが聞いた。
 「はい。美術部で間違いありません。よろしくお願いします」
 わたし以外の皆が色めき、そろって起立すると「お願いします!」ってきっちりしたお辞儀をすると、顔を見合わせて口々に喜びの言葉をささやき合う。
 一人だけ座ったままのわたしに、本日、二回目の目を合わせ、「夏月さんもよろしくお願いします」って笑顔を見せた。

 この人なんなんだろうか?

続く

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