やっぱり退学? 💞L恋小説 春の晩夏39💞

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💞L恋小説 春の晩夏39💞 やっぱり退学?

絶体絶命のわたしに意外な人が声を掛けてきた。
 「夏月さん、勇気を出してここに来てくれてありがとう。いずれにしても影山コーチは潔白という事ですね」
 わたしを見かねたわけでなかった。瑞希ちゃんを守りたい顧問らしい発言だ。
 「ちょっと待ってください! あの動画を見る限り、夏月さんが誘ったようには見えません」
 叫んだのはわたしの担任だ。こんなに感情的な声を挙げるのは初めてだ。地味で棘のある話し方をする女教師だ。嫌われていると思っていた。でも、今はわたしを守ろうとしている。じわっとこみ上げてきた。
 「いやいや、じゃあ先生は影山コーチが誘ったと仰りたいんですか?」
 責めるような口調だった。瑞希ちゃんを庇いたい気持ちが前面に出ている。
 「落ち着いてください。そうは言ってません」
 「もう一度観て検証するのは如何でしょう?」
 学年主任の提案が採用された。何人かのノートパソコンとかタブレットに動画の用意がされる。
 わたしは瑞希ちゃんの後ろから顧問の先生のノートパソコンを覗き込んだ。
 あの時の河原。トマト色の軽トラック。その荷台に立っているわたしたち。香耶ちゃんが言っていたように犬の尻尾とリードが写り込んでいる。
 「あ、夏月さんの方から身体を寄せていますね」
 「でも、それを影山さんが引き寄せているじゃないですか」
 「お二人とも、お静かに」
 顧問と担任を校長がたしなめた。
 「この会議の争点は二人が交際しているのか、もしくは好ましくない行為が二人の間にあったのか。です」
 「付き合っていません。変なこともしてません」
 喉の奥が貼り付いていてかすれた声がでた。
 ちゃんと演技しなくちゃ。美和先輩に教えてもらったように、こういう時はゆっくりと唾を飲み込む。大袈裟にならないように。そして本当も混ぜ込む事。わたしは、テーブルの一点を見つめながら静かに切り出した。
 「雨の時にばったり会って、目が合ったのに声も掛けてくれなかったから根に持って反発しました。でも、この日、偶然会って、話がしたいって言われて、あの川に行きました。トラックには初めて乗りました。折角だから荷台に乗ってみたいって、お願いしたんです。川がキラキラしてて。その時の影山先生の言葉に感動して、ちょっとピタってしたくなって。だって皆に人気の実習生ですよ。『瑞希先生~』とか言ってベタベタする人も沢山いて、わたしもちょっとだけピタってしたくなって。でも、上手くかわされました。直ぐに離れてますよね? それからドラマみたいに土手にゴロンて青春するのもいいねってなったんですけど、汚れるからって荷台で我慢したんです。それだけです。何もしてません」
 『ここでは』という余計な言葉はもちろん引っ込めた。
 皆が納得しそうな空気を感じた。上手くできたかも! これなら辞めるとか転校とかしなくていいかも!
 「そうだったとしましょう。しかしながら、私が解せないのは、あなたがここに飛び込んできて開口一番、『わたしが誘った』と言った事です。でも今は話がしたいと誘ったのは影山さんだと仰る。矛盾していませんか? それとも別件であなたは影山さんを誘って不適切な関係を持ったということですか?」
 教頭先生が抜け目なく痛いところを突いてきた。
 「え、えっと、そんな事言いましたっけ?」
 ヤバっ。誤魔化せない。
 教頭先生は組んだ手の甲の上にアゴを乗せた。漫画でしか見た事ないようなポーズでわたしを見据えてくる。
 こめかみ辺りから髪に隠れた頬を伝って汗が流れているのが分かった。もうすぐアゴの先に到達しそうだ。拭うべきだろうか? 動揺の汗を悟られたくない。
 「恐れながら発言させて頂きます」
 沈黙していた瑞希ちゃんが口を開いた。
 教頭の視線がそれた隙に鼻をすするふりをして手首辺りで汗を払った。さすが瑞希ちゃん。わたしのピンチを救ってくれる。
 「生徒さんが教師に憧れの気持ちを抱くのは悪いことではないと思います。私も中学生の時分、仄かな憧れを当時の担任教師に対して抱いたことがあります」
 「私が投げかけた疑問の答えになっていないのでは?」
 その突っ込みに押し黙るしかなかった。さすがの瑞希ちゃんでもどうにもできない。わたしは、この場に乗り込んできたことを改めて後悔した。
 やっぱり最初のプラン通り、わたしから誘いだして無理矢理キスをした。影山先生は、それを庇う為に嘘をついた。くらいの事を言ったらいいのかもしれない。
 気持ちが固まった。わたしは自分のやるべきことをする。
 「あ、あの……」
 教頭先生と学年主任の視線がわたしの顔を飛び越えた。いくつもの駆けてくる足音がする。振り向いたらガラって音がして扉が開いた。
 「あれは私です!」
 「いえ、私です!」
 「違います! 私です!」
 「何言ってんの? 私じゃん」
 自分だと主張する沢山の声がこの部屋を占拠した。
 誰かと思えば、京佳ちゃんを先頭にしたバレーボール部と美術部の人たちだ。三年生も全員いる。こんなことしたら推薦や内申書に響くんじゃないの? しかも、全員が金髪のウィッグを……いや、オレンジや黄色や赤の毛糸みたいなのを被っている人もいる。さらに言うと、廊下にはアフロやバカ殿までいる。
 この乱入者たちに向かって声を挙げたのは顧問の先生だった。
 「お前たち……何やってんだ!?」
 「大学にあった絵は私がモデルです!」
 京佳ちゃんがウィッグの髪をなびかせた。
 「違うよ。私です! この金髪を見てもらったら分かると思います!」
 他の人が後に続く。
 「そしたらトラックに乗っていたのは私です!」
 「そんなわけないじゃん。私私」
 この騒ぎの狙いは分からないけど、皆がわたし達をなんとかしようとしているのは確かだ。そう言えば、あの毛糸のカツラとかは演劇部が文化祭で使ったものだ。きっと京佳ちゃんが先導して集まってくれたんだろう。お兄ちゃんがDVDで観ていた昭和の学園ドラマみたいにやってることはダサいけど、それでも黒目の真ん中が熱くなった。
 「幼稚な真似をするのは止めなさい」
 「至急退室しなさい」
 教頭と校長が立て続けに皆をたしなめた。先生たちが外に誘導しようと立ち上がったけど、背が高いバレーボール部の人たちの圧迫感がすごくて何もできないでいる。
 「影山コーチを辞めさせないでください!」
 京佳ちゃんが声を張り上げると、皆もそれに続いた。
 何十人もの「お願いします!」という声は圧巻だった。
 瑞希ちゃんが立ち上がった。
 「落ち着いてください」
 全員がその声に従った。
 「皆さんがこのような事を何故しているのか、想像に難くはありませんが、落ち着いてください」
 瑞希ちゃんは理事長たちに向き直り提案した。
 「このまま解散させては話が変形されて伝わる可能性が高いと思います。代表者を残して廊下で待機してもらい、こちらでは話を続けては如何でしょうか?」
 この提案が採用されてバレーボール部の部長さんと美術部の部長さん以外の人は廊下に出ていった。
 「改めて、発言宜しいでしょうか?」瑞希ちゃんが手を挙げた。
 「疑問があります。先ほどの動画は何故、二人の姿が見えなくなったところで終わっているのでしょう? 決定的瞬間を捉えたいならこっそり近づくか、土手のもっと上に行けば撮影可能なはずです。それをしなかった。いえ、したけれど編集でカットした。荷台の私たちが写っているところを見たら何もないことが歴然だからです。なので都合の良い編集をしたのではないでしょうか? 代わりに版画をセットにすることで信ぴょう性を上げようとしたのではないかと思うのです」
 さすが瑞希ちゃん。冴えまくっている。皆が唸った。
 「確かに、その通りですよ」
 「ですよね」
 顧問と担任が目を合わせて頷きあった。
 「夏月さんの『私が誘った』という発言は、先ほど乱入してきた皆のように私を庇おうとしての嘘だと思います。来る時に、二つ隣りの教室に夏月さんはいました。この顔ぶれがこんなところに来たら何事かと思っても不思議はありません。廊下で盗み聞きでもしたのでしょう。ドラマではありませんので、会話をきちんと聞きとる事ができるはずありません。所々の言葉を拾い、勘違いして慌てて入ってきたのだと思います」
 教頭先生のアゴを支えていた手と一緒に険しい表情も解けた。校長や他の先生も小刻みに頷いた。
 「確かにそうですね。私は納得できました」
 理事長さんのこの言葉に異論の声は挙がらなかった。
 なんとか収束の時を迎えそうだ。肩の荷が下りるという慣用句の意味を実感したわたしです。
 そんな時、またしてもノックと同時にガラって音がして扉が開いた。
 入ってきたのは香耶ちゃんと他の学校の制服を着た従姉の人だった。
 「あれは私です!」
 なんなんだこのループ地獄。この期に及んで、もうわけがわからない。
 「すみませんでした! あのメールを送ったのは私です!」
 従姉の人が太ももにオデコがくっつくくらい頭を下げた。
 「迷惑を掛けてすみませんでした!」
 隣の香耶ちゃんも負けないくらいに身体を折り曲げた。
 「当校はその謝罪を受け入れます」
 理事長さんが優しく頷いた。
 顔をあげた二人が漫画で描いたようなキョトンとした顔を、他の先生たちは苦笑いをしている。
 笑える。笑わないけど。
 なんかよく分かんないけど。一件落着らしい。

続く

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※ 画像と記事は関係ありません。画像はAIアプリを使って生成したものです。