大学の文化祭でデート 💞L恋小説 春の晩夏33💞

L恋小説

💞L恋小説 春の晩夏33💞 大学の文化祭でデート

 京佳ちゃんからの追及はもうないだろう。でも、不快がずっとこびりついている。
 山盛りのおかずをお盆に載せてきた小母さんの笑顔まで蘇るから、なにしろ後味が悪すぎる。病院でもらった粉末の薬が舌に乗っかった時のようだ。
 結局、罪の意識というプレッシャーを我慢することは諦め、LINEで『ごめん言い過ぎた』って謝った。既読がついてだいぶ経ってから『分かった』って返事がきた。付かず離れずな丁度いい距離になりそうな気がする。思い切ってLINEして良かった。

 瑞希ちゃんと話し合って秘密の部屋での密会はしばらく控えることにした。
 ただ、お昼になると居なくなっていたわたしが毎日教室でお弁当を食べるのは変だ。そこで思い切って香耶ちゃんに話しかけた。
 「ルービックキュー部の部屋をご飯食べるのに使わせてもらえませんか?」
 「一緒に食べる? それとも一人になりたい?」
 「えっ、と……」
 一緒にって言われるとは思っていなかったから返事につまづいた。
 「あ、ごめん。春ちゃんの好きに使って」
 優しくて何かを悟ったような笑顔に見えた。香耶ちゃんは今でもわたしの味方だった。
 「あ、あの、今日は……。だけど、今度、お願いします」
 ドギマギしながら何故か敬語を使っていた。
 「無理しなくていいよ」
 「違う。無理なんてしてないよ。香耶ちゃんが嫌じゃなかったら来週。明日から三連休だから、火曜日。良かったら一緒に食べよ」
 「うん。じゃあ約束」
 夏の始まりと比べて香耶ちゃんが成長している気がする。言葉や態度が遠慮がちで陰キャだったと思うけど、堂々としていて頼もしく感じる。
 友だち関係、復活できるといいな。

 そして日曜日、わたしは黒髪のウィッグの上に麦わら帽子を被り白いワンピースを着て清楚系に変身した。真夏の恰好そのままだけど、まだまだ暑いので丁度いい。
 二人の設定も再確認した。わたしは人見知りが激しい従妹。何か話しかけられたりしたら瑞希ちゃんの影に隠れてやり過ごす。バッチリだ!
 瑞希ちゃんは日中バレーボールのコーチがあるから、夕方から行くことにした。明日は体育の日で休みだからお泊りもする。今夜も沢山エッチしちゃお。
 大学の文化祭に来たのは初めてだった。先の事とか考えていなかったけど、ここならバスで通学できるし、瑞希ちゃんの部屋も近いからお泊りも簡単だ。とか言ってもまだ先の話だけど、ちょっとだけ進路を意識した。
 アーチをくぐると模擬店がお祭りの屋台のように並んでいた。地元の人は割引で買えるらしく家族連れなんかが沢山いる。こんなに人がいっぱい居るところでデートするなんて、知っている人と会ったらどうしようというドキドキと、でもその時は瑞希ちゃんが守ってくれるという安心感が交互に感情をくすぐってくる。
 二人で歩いていると色々な人から声を掛けられて、その度にわたしは瑞希ちゃんの後ろに回って身体を半分隠す。すると瑞希ちゃんがこう切り出す。
 「人見知りの強い従妹なのです」
 このセリフを何度聞いたことだろう。瑞希ちゃんは大学でも人気があった。
 半分こしようと思って綿あめを買うと「影山さんの従妹さんにサービス」って一本おまけしてくれた。食べながらブラブラ歩いてから、美術サークルの展示室に入った。
 なんかよく分からない巨大なオブジェを中心にして周囲の壁に沿って静物画や人物画、抽象画、版画に粘土細工、彫刻などなどが不規則に飾られ、統一感のないことをアートだと言い張っている室内を見て楽しんだ。ふと目が留まった。雨の中を歩いていく金髪女子の後ろ姿の版画があった。
 「令和版、『おおはしあたけの夕立』です」
 「これって」
 「友人に頼んで版画を教えて頂きまして、私が作成しました」
 「やられた」
 「決して意地悪ではありません。私も何か形にして残しておきたくて」
 「あの時のわたしは意地悪で描いたんだけどね」
 「知っています。もう二度と黙って見送ることはしません」
 瑞希ちゃんが周囲を確認して声を潜めて続けた。
 「追いかけて抱きしめます」
 「うん」
 今すぐ抱きしめて欲しくなった。こっそりと指をつないで直ぐに離すだけで我慢した。
 文化祭は二十時には撤収だそうだ。そろそろ十九時半。瑞希ちゃんの部屋に向かうとしよう。
 特設ステージでトリを務めているのはアイドル、高尾山44の人たちだった。なんで美和先輩が入れなかったのか不思議でならない。贔屓の無い目で見ても先輩が誰よりも断然可愛いのに。
 「アイドルとか興味あるんですか?」
 「え? いや、それほどでも」
 「食い入るように見つめていたので何かしら惹かれているのかと思いました」
 「全然全然、アイドルとか興味ないから」
 これも嘘になるのだろうか。いつか美和先輩のことを瑞希ちゃんにも話す時が――。
 思考が寸断された。
 後ろから瑞希ちゃんが呼び止められた。この声は京佳ちゃんだ。瑞希ちゃんの背後に隠れながら振り向くと。京佳ちゃんやバレーボール部の人たちがいた。
 「やっぱりコーチだ」
 「皆さん、どうしたんですか?」
 「ちょっと来てみたくなって……」
 そこにいる全員が興味を持ってわたしを見ているのが分かる。特に京佳ちゃんは探るような目つきをしている。わたしは更に顔を伏せた。
 「皆さん、この子は私の従妹です」
 「あーあの時の。皆、邪魔したら悪いよ」
 そう言ったのは、以前、山の中のお蕎麦屋さんで会った人だった。従妹は酷い人見知りだって分かっているから気を利かせてくれたんだろう。
 バレーボール部の人たちは特設ステージに向かって行った。取り合えず一安心。
 「まさか来るとは思いもしませんでした。自主練をしっかりするように言ったので高を括っていました。でも万が一を想定はしていましたし、予想よりも簡単に解決しましたね」
 「ま、そうだね」
 瑞希ちゃんが大学の人に声を掛けられた。何か急ぎの用があるらしい。わたしはここで待つことにした。
 改めて屋台を眺めてみる。その中に桃を使ったスイーツ専門の屋台があった。桃って旬終わってない? 10月でも晩生(おくて)という種は収穫できるそうだ。お店のお姉さんがそう言って旬の桃をアピールしている。そういえばこの人、見た事あるかもしれない。
 今度は横から声を掛けられた。
 「春ちゃん?」
 相手は香耶ちゃんだ。思い出した。この屋台のお姉さんは香耶ちゃんの農園を手伝っていた親戚の人だ。それよりも、香耶ちゃんは、なんでわたしって分かったの?
 そして、わたしは痛い視線を初体験した。
 少しだけ離れた斜め前辺りに京佳ちゃんが居る。いつの間にか屋台の脇に回り込んだんだろう。真意を確認しようとしているみたいだ。目に神経を集中してこちらを見ている。
 わたしを守ってくれる瑞希ちゃんは今は居ない。

続く

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※ 画像と記事は関係ありません。画像はAIアプリを使って生成したものです。