💞L恋小説 春の晩夏32💞 また一人失った
月曜の昼休み。秘密の部屋で瑞希ちゃんとランチデートだ。昨日心配させたお詫びを兼ねて明太クリーム和えペンネを作った。
「こんなことしなくていいんですよ。でも、美味しそうです」
瑞希ちゃんは一口食べると「ん?」って呟いて目を見開き、ペンネを口に運び続けた。
美味しそうに食べてくれている。嬉しくてじっと見つめた。その視線に気づいたみたいだ。瑞希ちゃんは顔を上げるとフォークの先をお弁当箱のフタの縁にゆっくりと乗せて姿勢を正した。
「我を忘れて夢中になって食べていました。とても美味しいです」
ほんの少し視線を落とした照れ混じりの微笑みをもらった。
この笑顔はわたしのモノだ。気持ちは切り替える。今わたしの隣に居るのは瑞希ちゃんで間違いないのだから。
美和先輩を好きだった事実が無くなることはないけどそれで良い。瑞希ちゃんを好きな気持ちはこれっぽっちも減っていないのだ。
瑞希ちゃんは先に休憩終了になるので「じゃあまたね」のキスをして廊下に出る。扉が閉まると京佳ちゃんの声がした。
「コーチ?」
小走りの足音が近づいてきた。
「新田さんどうしたのですか?」
「あ、春ちゃん探していて、こっちの方に行ったみたいだって聞いたので」
―― え? わたしに用?
「見かけませんでしたけど」
「あの、ちなみにコーチ、こんなところで何してたんですか?」
「ええ、そうですね……」
さすがの瑞希ちゃんも歯切れが悪い。
「新田さん、秘密にできますか?」
「はい! 勿論です!」
二人のこと教えるの? わたしの心は覚悟の準備を始めた。
「ここは、やっと見つけた誰もこない場所なのです。皆さんから慕われるのはとても嬉しいのですが、たまには一人になりたい時があるのです」
「ごめんなさい! ですよね。皆コーチにまとわりつくからウザいですよね」
会話が聞き取れたのはここまで、多分二人で立ち去ったに違いない。いつの間にか吊り上がっていた両肩が降りた。
それにしても流石だ。ナイス誤魔化し! こう言われたら京佳ちゃんだってもうここには来ないよね。さすが瑞希ちゃん。
ところで、わたしに用ってなんだろうか? スマホを見ても京佳ちゃんからLINEは来ていない。思い当たることは無い。あるとしたら「買い物付き合って」違うな。そんな事でわざわざ探しにこない。
もしかして告白される? いやいやそれはないだろう。
―― とは言い切れないか。でも、それなら話は早い。ごめんなさいだ。
京佳ちゃんが待ち伏せているかもしれないから休憩が終わるギリギリに部屋を出た。でも、教室の前でわたしを待っていた。姿を見た瞬間、トキメキのようなドキドキがした。でも、ちゃんと断る。
「春ちゃん、放課後ちょっといい?」
「うーん今日はバイトが」
嘘をついた。
「じゃあ、次の休み時間」
「う、うん……」
嫌な予感がする。顔に混じった真剣さが強めだ。そして、その目はわたしを好きだと言っていない。その視線が落ちてわたしの手元に移った。
「お弁当二人分?」
ヤバ――。なんて観察眼してるんだ。ランチバックが大きく膨らんでいる。
「あ、ああ、スフレを食べたくなったから」
「すふれ?」
「ケーキみたいなやつ。ふわふわになるから重量的にはこれくらいでいつもと同じ量かな」
「へー、そうなんだ……」
京佳ちゃんの視線はお弁当箱から離れない。何か疑いがあるのだろうか?
「授業始まるよ。戻らなくていいの?」
「あ、いけね。じゃあ次の休み時間ね」
京佳ちゃんが駆け足で去っていった。
参った。何を聞かれるんだ? わたしと付き合いたいって顔じゃなかった。瑞希ちゃんにLINEして何か心当たりないか聞いてみようかな。
そんな時間はなかった。先生が廊下を歩いてきた。目が合った。こっそりスマホを持ち込むのは諦めてロッカーにしまった。
憂鬱な気分で授業が終わった。スマホを出そうとしている時に京佳ちゃんに声を掛けられた。休憩時間は短いから内容によってはなんとか誤魔化して時間切れに持ち込もう。わざと遅いペースで階段の踊り場まで歩く。
京佳ちゃんは周囲を見回し、ひそめた声で聞いてきた。
「春ちゃんさ、コーチのことどう思う?」
は? なんでこんなこと聞くんだ? 似たようなこと前にも聞かれた気がする。
「別になんとも思ってないけど」
「ホントに?」
当たり障りない感じで頷いてみた。
「この前、家のカラオケで歌った菜の花畑にって曲。なんで?」
「は? なんでって京佳ちゃんが歌えってすごい催促したからだよ」
「そういうんじゃなくて。なんであの歌なの?」
「……なんとなく」
言葉と同じく語尾もあやふやにして答えた。
「じゃあなんで、あんな歌知ってるの?」
なんではこっちのセリフだよ。どうしてこんなにグイグイくるんだろう?
「家のお兄ちゃんがファンでずっと前に良く聞かされたから」
「ホント?」
「なんでそんなに気になるの?」
「昨日、コーチも歌ったから。同じ歌」
―― ああ、そうか。そうだったのか……。これは盲点だった。
「坂道グループとか、NiziUとか、あいみょんとかなら良く被るけど、あの歌、今まで誰も歌ったことないよ」
「偶然でしょ」
間も、声のトーンも表情も、完璧なまでに素っ気なく答えることができた。
「……だよね」
京佳ちゃんの表情は微妙だ。まだ疑いが晴れない。何か感じ取ったのかもしれない。このままだと拙いことになりそう。
「あのさ、どーでもいいんだけど。なんであの人とわたしを繋げようとするわけ?」
「え……」
強気にでてみたら効果あったみたいだ。京佳ちゃんは唇をもごもごさせて困っている。
「いい加減、こんなことでわたしの時間つぶさないで欲しい」
京佳ちゃんの顔が静かにハッとした。口をもどかしく歪に動かしながら時間を掛けて項垂れた。彼女は床の一点を見つめながら謝罪の言葉をこぼれるように呟いた。
「ごめんなさい……」
予鈴をきっかけにわたしは京佳ちゃんを置き去りにして教室に向かった。
また一人、友だちを失った気がした。
続く
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※ 画像と記事は関係ありません。画像はAIアプリを使って生成したものです。
