再会のエピローグ 💞L恋小説 春の晩夏31💞

L恋小説

💞L恋小説 春の晩夏31💞 再会のエピローグ

 お腹と一緒に気分も満たされてサイゼを出た。
 有紗さんが車のキーのリモコンを押すと白い軽自動車のハザードランプが点滅して楽し気な電子音が鳴った。
 「春っちさ、家の前まで送ってく」
 「大丈夫ですよ。直ぐなんで」
 「ダメだ。こんな時間に女の子を一人で歩かせるわけにはいかないぜ」
 なんだその臭いお芝居のような口調は。笑いながら頷こうとしたら瑞希ちゃんから電話がかかってきた。
 「カノジョさん?」
 口角が上がって目尻が下がった。唇を口の中に閉まって頷いた。
 「遠慮しないで出ておきな。中で待ってるぜ」
 さっきのキャラ引きずりっぱなしでウケる。
 有紗さんは車に乗った。話してる姿を見られるのは恥ずかしいから車の後ろに行ってしゃがみ込んだ。
 瑞希ちゃんはわたしの調子を心配して電話をしてきたと言った。試合後の親睦会がやっと終わったそうだ。京佳ちゃんの部屋で二次会カラオケをしたんだって笑っていた。
 身体は大丈夫だと伝え、明日のお昼に秘密の部屋で会う約束をして通話を終えた。 

 当たり前だけど車は早いし楽だな。大通りからその角を左に曲がって進めば直ぐだ。有紗さんがハンドルを左にきって住宅街の細い道に入るとマンションの前でタクシーのハザードが点滅していた。道は狭く、すり抜けるのは無理だ。有紗さんは車を停めた。
 「タクシーが出るまでちょっと待ってね」
 「ここでいいですよ。家そこなんで」
 わたしはシートベルトを外した。
 「あの人、誰か待ってるのかな?」
 タクシーの脇に人影が立っていた。キャップを被った女の人がわたしの部屋の辺りを見上げている。涙が込み上げてきた。口に手を押し付けて嗚咽を飲み込んだ。
 わたしだって、帽子で顔をちょっと隠したくらいなら誰なのかはっきり分かる。
 「春っちどうかした?」
 口を手でふさいだまま首を横に振った。
 「酔った?」
 「大丈夫です」できるだけ気丈な声を絞りだした。
 有紗さんから顔をできる限り背けながら前に佇んでいる美和先輩の姿を盗み見た。わたしに想いを馳せてくれている事が痛いくらいに伝わってくる。なにもかもが、あの頃の全部が、困るくらいに蘇ってきた。仕舞っていた想いが胸を締め付けた。それでも、つい一か月位前まで愛していた人の横顔から目が離れない。
 規則正しいハザードと小さく振動するエンジン音の横で有紗さんの服が擦れた音が聞こえた。わたしと美和先輩を交互に見た気がする。
 タクシーの運転手さんが中から先輩に声を掛けて後ろを指さした。先輩はこちらを振り向くと会釈をして開いたドアの中に入っていった。目は合わなかった。タクシーが美和先輩を連れ去った。
 滲んだ涙は押し戻したけど、肩が揺れるくらい大きな呼吸をした。何もなかったかのようにわたしは車を降りて、何もなかったかのように明日から現実の世界で生きていく。そう決意してドアノブに手を伸ばした。
 「ちょっと待って」
 引き留められた。あのタクシーを追いかけてもらう選択肢が微かに湧いた。わたしの異変を察知した有紗さんが追いかけるって言うかもしれない。でも、それは却下してドギマギをなんとか取り繕い、しらばっくれることを決めた。
 「春っち忘れ物」
 わたしの勘違いだった。
 後部座席に置いてあるもらった服が差し出された。少しホッとして同じくらいガッカリした。
 「あ、ありがとうございます」
 服に手を伸ばしたら引っ込められた。
 「おせっかい妬いて黙って追いかけることはできるけど。それは違うと思う。春っちはどうしたい?」
 「なんのことですか?」
 「誤魔化さなくていい。大体の事が分かったし、私は絶対、誰にも言わない」
 どうしたらいいんだろう? 嫌になるくらい優柔不断なわたしが居る。
 「どうすべきか、じゃなくて、今どうしたいかだと思う。私は我慢せずに春っちに告白したこと後悔してないよ」
 タクシーの灯りはとっくに角を曲がって消えているけど、できることなら追いかけてもらいたい。
 「有紗さん、お願いします!」
 車はバックした。
 「え?」
 「大丈夫。多分駅だよ。時間的に東京方面の終電に乗るんだと思う。このまま住宅街行くより通りにでた方が早いから」
 有紗さんは察しが良い。殆どのことを悟ったみたいだ。
 バックで大通りにでると軽自動車らしからぬエンジン音をさせて急加速した。
 この町を出て行く先輩を追いかける。この感覚、懐かしい。前は香耶ちゃんの自転車の荷台に乗っていた。あの時みたいな時間の余裕もなければお姉ちゃんのパスモもない。話をする時間もきっとない。せめて何か一言伝えたい。

 車はロータリーに着いた。終電の二分前だった。停車と同時にドアを開けて駆けだした。長くて広い階段を駆けあがる。改札前にも切符売り場にも先輩の姿は無かった。改札のギリギリまで駆け寄って中を見回した。奥のキオスクのシャッターを店員さんが閉め始めた。
 間に合わなかった。
 念のために振り返った。先輩が居るなんてことはなかった。
 改札の中から「すみません。ありがとうございました」って声が聞こえた。先輩が居た。キオスクの店員さんにお辞儀をして半分閉まったシャッターをくぐって出てきた。
 「美和先輩!」お腹から身体を折り曲げてありったけの声を出した。
 声はちゃんと届いた。
 「春ちゃん!」
 先輩が駆けてきた。
 伸ばした手に先輩の手が触れた。
 自動改札の赤いランプが点滅して大きな警告音が鳴った。近づきすぎたらしい。わたしは半歩下がった。指が触れたのはあっという間の時間だった。
 「ごめんなさい。朝一言も言えなくて」
 「春ちゃんのそういう不器用なところも好きだよ」
 涙がまぶたを膨らませる。唇をかんで頷いた。
 電車がホームに到着するってアナウンスがかかった。
 「行かなくちゃ」
 先輩は階段に向かって歩き出した。
 「わたしも会えて良かったです!」
 先輩は笑顔で頷いて階段を下りていった。
 電車が到着して開いたドアが閉まり、線路の上を走り出す音がした。
 あっけなかった。上り詰めた感情の引っこめ方が分からない。コンコースまで駆けていき大きな窓から目で追った。小さな光がどんどん遠ざかっていく。湧き出したどうしようもない位の寂しさは涙にして全部こぼした。

続く

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※ 画像と記事は関係ありません。画像はAIアプリを使って生成したものです。