討ち入りJK 💞L恋小説 春の晩夏38💞

L恋小説

💞L恋小説 春の晩夏38💞 討ち入りJK

 久しぶりにマンションの屋上に出た。輪郭のはっきりした山の影を目印にして瑞希ちゃんの部屋の方に身体を向けてみた。今、どんな気持ちでいるんだろうか。
 瑞希ちゃんからは電話ではなくLNEが来た。
 『春ちゃんは何も心配せず、普段通りに過ごしてください』
 カッコ付けて一人で被る気だ。でも、そうはさせない。そんなことしたら瑞希ちゃんは教師になれない。
 京佳ちゃんにお願いして、会議をいつどこでするのか顧問の先生から聞きだしてもらった。決行は放課後、場所はわたしと瑞希ちゃんの秘密の部屋だ。人目を避けるのにうってつけだからそうしたみたいだ。

 学校に行くと香耶ちゃんが謝ってきた。
 「万知子ちゃんに確認した。本当にごめんなさい」
 「いいよいいよ。しょうがない」
 「しょうがなくなんてないよ」
 「誤解でした、って取り消しメールしてもらったけど」
 「じゃあ大丈夫じゃない?」
 そのメールは届いたそうだ。でも、そうそう鵜呑みにもできず、会議は予定通り行うことになったらしい。京佳ちゃんが顧問から聞き出した情報だ。この顧問の先生も瑞希ちゃんには辞めて欲しくない人だそうだ。そうでなきゃこんなに協力しないよね。

 昼休みは居場所がないから美術室に行ってみた。瑞希ちゃんが外れてから以前の閑散とした部活に戻り、昼休みにここを使う人は居なくなった。
 この部屋に入るのもこれで最後かもしれない。わたしは床に油絵の具がこびりついた定位置の席につき、足の裏にデコボコを感じながらお弁当を食べた。
 食べ始めて直ぐ、香耶ちゃんと京佳ちゃんが入ってきた。もういい加減でよくない?
 「いたいた。ここだった」
 「ねえ、春ちゃん、何かするつもりなの?」
 「考えたけど、何も思いつかないから瑞希ちゃんに全部お任せすることにしたって言ったじゃん」わたしはとぼけ通した。
 二人は顔を合わせて瞬きで頷き合うと「分かった」と言って出て行った。
 「じゃあなんで会議の場所とか聞いたんだ」って京佳ちゃんから突っ込まれると思っていたけどそれはなかった。

 授業が終わると、香耶ちゃんは「家の手伝いがある」とか誰かに言って大急ぎで教室を出て行った。丁度良かった。
 わたしはルービックキュー部の部屋に隠れて扉の窓から廊下を見つめた。一人ずつ会議に向かう人の影が見えた。校長先生の他に理事長さんも来ていた。緊張が二割盛られた。
 昨夜、お姉ちゃんは仕事が忙しいらしく部屋に籠っていたから相談できなかった。事後報告になるけど、理解してくれると思う。
 皆が集まってから10分ほどして瑞希ちゃんの横顔が扉の窓の向こうを横切った。
 これから瑞希ちゃんが入室して、前置きみたいのして、多分、なんで呼ばれたか説明されて、瑞希ちゃんが釈明して……。
 そろそろわたしの出番。ほっぺをペシペシ叩いて気合をいれる。
 扉の前で胸いっぱいに息を吸いこんでノックして返事を待たずに入室した。その場にいる全員が一斉にわたしを見つめてきた。その瞬間、何て言おうとしたのか忘れた――。苦し紛れの言葉が飛びだした。
 「誘ったのはわたしです!」
 「夏月さん!」
 瑞希ちゃんが動揺まる出しで立ち上がった。
 「夏月さん、落ち着きましょう」
 担任がわたしの前に立ちふさがった。
 「君のことは呼んでいない。出て行きなさい」
 教頭先生の声が担任を突き抜けてわたしにぶつかった。でも、ここで引くことはしない。わたしは退学する覚悟で来ているのだ。
 「影山先生は悪くないです。わたしが悪いんです」
 「夏月さん、あなたは何を言い出すんですか」
 担任に肩をつかまれた。
 瑞希ちゃんがわたしを見つめていることは気配で分かったけど、視界に入らないようにした。
 「あなたからもお話を伺った方がいいのかもしれませんね」
 理事長さんが口を開いた。
 「そこにお掛けください」
 わたしは瑞希ちゃんの隣りに座った。
 「学年主任、ここまでのお話を整理して教えてあげてください」
 「はい理事長」
 動画と画像のメールが届いたこと、瑞希ちゃんに話を聞く為に臨時会議を開いていることが箇条書きのように説明された。
 「私の言い分はこうです」
 瑞希ちゃんがさり気なく、話の主導権をとって続けた。
 「先ほども説明させて頂きましたが、夏月さんをトラックに載せて河原に行ったのは事実です。彼女の態度が気になっていましたので、偶然、見かけた時に声を掛け、河川敷まで行きました。ごろりと仰向けになって空を見上げる。青春ドラマみたいで一度やってみたかったのです。ですが、ドラマと違って現実の土手には虫がいますし、服も汚れてしまいます。ですから荷台で仰向けになり二人で空を仰ぎました。身を隠して何かしようなどという考えは微塵もありません」
 瑞希ちゃんの固い言い回しが説得力を大盛りにさせている。
 「大学に飾ったものは版画です。以前、夏月さんが雨の中を歩いているのを見かけたのですが、それは私が実習生になった初日の出来事でした。生徒さんと個人的に関わらない方がいい。そのように考えてしまい、声をかけそびれてしまいました。この事を私は非常に後悔しています。やはり声を掛けるべきでした。この時の事が原因で夏月さんは私を避けるようになったのだと推測しました。なので形として残し、自分への戒めにするために作りました。美術サークルの友人がとても気に入ってくれて是非、展示させてくれと頼まれました。迷いましたが承諾しました。今にして思えば、あの雨の日に声を掛けていれば、夏月さんと一緒に川に行くこともなく、誤解が発生し、皆さまに多大なるご迷惑及びご心配を掛ける事もなかったでしょう。誠に申し訳ございませんでした」
 瑞希ちゃんが背筋を伸ばして頭を下げた。
 「今朝、メールを出した人物から勘違いだったという謝罪メールもきたので、いたずらで処理をするつもりでした。それでも事実確認はすべきということでこの場を設けました。影山さんの言い分にも納得でき、担任の石塚先生から客観的な印象も伺ったところ、夏月さんは影山さんを牽制していたように感じていたと回答がありましたので、今後、誤解を招くような行動は慎むよう注意だけで終わりにするところだったのですけどね」
 普段は温和な校長先生がキャラクターの通り、穏やかに言葉をつづった。でも、最後の『ね』の音に含みがあった。まるで、疑惑が復活しましたよと言っているみたいだった。
 わたしは余計な事をしたんだって思い知った。瑞希ちゃんの機転を台無しにしてしまった。
 「それで夏月さん。あなたが誘ったというのはどういうことでしょうか? あなたがこの場に来たというのも私には解せない」
 教頭先生が周囲の先生たちに同意を求め、何人かが頷くのが見えた。
 ど、どうしよう……。

続く

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※ 画像と記事は関係ありません。画像はAIアプリを使って生成したものです。