決意の時 💞L恋小説 春の晩夏37💞

L恋小説

💞L恋小説 春の晩夏37💞 決意の時

 京佳ちゃんが後ろ手に扉を閉めた瞬間だった。殺伐という言葉が頭に浮かんだ。救いなのは香耶ちゃんがいてくれることだった。
 「香耶ちゃん、ごめん」
 「私は大丈夫。それよりお弁当、食べない?」
 「うん」生返事というやつをしたことが自覚できた。
 わたしはなんとなく箸を伸ばして、なんとなく食べ物を口に運んだ。味を感じることはできているけど味わう余裕はない。頭の中が味覚を後回しにして後悔に耐えている。
 LINEの着信音がした。瑞希ちゃんかと思ったら京佳ちゃんだった。顧問の先生の所にまた行って、送られてきたメール文のスクショを転送してきたのだ。
 『おたくのって書いてあったからやっぱり部外者』
 わたしは、一人心当たりがあった。京佳ちゃんがいた時から「もしかしたら」って思っていたけど……。
 「そうそう、話し変わるけど、あの人、前にも会ったことある香耶ちゃんの親戚の人なんだけど、昨日、わたしが大学で貧血して助けてくれた」
 「そうなんだ。万知子ちゃんは優しくて面倒見いいから」
 「そう言えば、良く一緒にいるけど近所なの?」
 「ううん。ちょっと離れてる。あの川の近くだよ」
 ―― つながった気がした。
 「あそこだと結構距離あるよねー」
 疑っているってバレないように話を無理なく逸らしていく。
 「そうそう。でも今年の夏は家が大変だったから何度も泊り込んでくれて、すっごい手伝ってくれて」
 「良い人そうだもんね」
 「うん。お姉ちゃんみたいな存在。子供の頃からずっと可愛がってくれてるの」
 「そっか」
 わたしが香耶ちゃんを弄んでほったらかしにしていつの間にか他の人と付き合ってる。みたいに思ったんだろうな。そう思われても責められない。
 香耶ちゃんの笑顔が思案顔になって真顔になった。感づかれた気がする。
 「そう言えばさ、香耶ちゃんの小母さんもう大丈夫なの?」
 「もしかして、万知子ちゃんのこと疑ってる?」
 話を逸らせずわたしの質問は空振りした。香耶ちゃんの顔から柔らかさが消滅した。
 「ん? 違う違う。そんなんじゃないよ」
 とぼけきれずに伝わってしまったみたいだ。香耶ちゃんは顔をそむけて静止した。なにかを堪えているように口が一本の線になった。仲良しの従姉さんを疑ったんだ。気分悪くして当然だ。
 食べ終えていないお弁当箱にフタがされた。
 京佳ちゃんに引き続き、香耶ちゃんも出ていった。
 救い無き、真の殺伐を思い知るわたしです。
 でも、考えてみる。このまま何もしないわけにはいかない。
 香耶ちゃんの従姉の人がやったとして……。やったとして、どうだっていうんだろう? 誰がやったのか特定したところで何ができるんだろう? 送られてきた動画に写っていることも事実。大学に、わたしをモチーフにした瑞希ちゃんの版画が飾ってあったのも事実。打つ手なんてないんじゃないか?
 優先事項は、瑞希ちゃんの教師になるっていう夢を守ること――。
 だとしたら、わたしにできることは一つしかない。
 秋姉ちゃんにお願いして転校させてもらおうかな。わたしが居なくなったら問題が無くなるよね。
 わたしが相談にのって欲しいとか言って瑞希ちゃんを騙して呼び出して……。これが一番説得力あるんじゃないか?
 ―― 決めた! 決めたらスッキリした。
 京佳ちゃんみたいにご飯をかき込んでみた。そう言えば、怒ると力がでるって瑞希ちゃんが教えてくれたっけ。
 わたしも気合を入れてみる。
 両手で握りこぶしを作った。
 「明日の会議に乗り込んでやる!」
 京佳ちゃんみたく音をたてて立ちあがった。
 「何する気!?」
 ドアの開く音より先にビックリマークのついたクエスチョンが飛び込んできた。
 京佳ちゃんと香耶ちゃんだった。
 「春ちゃん、明日なにかするの?」
 心配顔のお手本みたいな表情をした香耶ちゃんがわたしの顔を覗き込んだ。
 「ん? なんでもない。それよりどうしたの?」
 納得していない二つの顔が一度目を合わせ、さっき座っていた席についた。
 「春ちゃん、ごめん。あのメール万知子ちゃんだと思う。動画を見せてもらったら犬のリードと尻尾が写ってて……。間違いないと思う」
 「だったとしても、どうにもできないよ。従姉さんに頼んで、送ったメールは嘘ですって取り消しメールでもしてもらうの? そんなことしても何も解決しないよ」
 「フェイク動画ってことにしてもらったらいいじゃん」
 京佳ちゃんが、名案だろ? みたいな顔をした。
 「そこまでした人がなんで取り消すの? 違和感を与えるだけだよ。そもそもそんな中途半端な動画を作る意味がない。やるならもっと決定的なの作るんじゃない?」
 わたし冴えてきたかもしれない。やっぱり覚悟は決めるもんだ。
 二人は黙り込んだ。この件について誤魔化しは効かないって二人も観念したと思う。
 わたしは平然さを見せつける為にお弁当のおかずに手を伸ばした。
 「で、春ちゃん、明日なにするつもり?」
 「え? 明日? なにもしないよ」
 「とぼけるなよ。何やらかすつもりだよ」
 「瑞希ちゃんがどうにかしてくれるよ、きっと。お弁当食べなくちゃ。昼休み終わっちゃう」
 かっかしている胃袋にお弁当の中身を詰め込んだ。

 続く

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※ 画像と記事は関係ありません。画像はAIアプリを使って生成したものです。