万事窮する 💞L恋小説 春の晩夏36💞

L恋小説

💞L恋小説 春の晩夏36💞 万事窮する

 ルービックキュー部の部屋に入ると、京佳ちゃんは机をコの字に付けて真ん中に座った。「取り合えず食べる」と言って小母さんが作ったであろう大盛りの生姜焼き弁当を食べ始めた。
 正解のリアクションが分からない。わたしと香耶ちゃんは無言でお弁当を開けて慎重に箸をつけた。
 「いつから付き合ってるの?」
 かき込んだご飯を飲み込んで京佳ちゃんが目を合わせずに呟いた。
 「だ、誰と誰が?」
 カナヅチなわたしの目が泳いだ。
 「とぼけないで。コーチと夏月さん」
 「もうそういうの止めてって言ったよね?」
 「そ、そうだよ。何を根拠に影山先生と春ちゃんが付き合ってるとかって言うの?」
 「ああもう。話が進まないじゃん」
 京佳ちゃんは強いイライラの混じったため息を吐いて続けた。
 「誰かが学校にチクった」
 ぼんやりとしたものが頭の中に広がる。でも、話の脈絡が分からないから腑に落とせない。
 「おたくの生徒と教師が女同士で付き合ってるみたいですけどって」
 頭の中で具体化され、しっかりと腑に落ちて絶句した――。
 代わりに香耶ちゃんが口を開いた。
 「どうして、あなたがそんな事知ってるんですか⁉」
 「職員室。顧問のとこに行ったら居なくて、そしたらパソコンに動画があって、川で軽トラの上に立っていた二人が寝そべって、荷台で姿が隠れて、何してたんだか」
 投げやりな棘を感じる口調だった。
 川でトラック……。身に覚えがあるけど、あの時はキスだってしていない。
 「画像もイマイチ不鮮明だけど、オレンジの軽トラだし、この高身長はコーチで間違いないだろうって、もう一人は金髪からして夏月春だろうって」
 「どうしてそんな動画がバレー部の顧問のパソコンにあるんですか?」
 わたしの疑問を香耶ちゃんが聞いてくれた。
 「メールで送られてきたんだって。後、大学の文化祭にコーチが描いた絵があって、そのモデルも夏月だろうって雨の中歩いている後ろ姿のやつが添付されてた」
 詰めが甘いなわたし達――。
 「今日コーチ休みだから明日呼び出されると思う。他に知ってるのは教頭と事務長とそっちの担任。放課後、校長も呼んで話し合うみたい。あと、メールを開いた事務の人は当然知っているけど口留めしたみたい」
 芸能人のスキャンダルの対応に追われる事務所ってこんな感じなのかな。当の本人はなにをすべきなんだろう――。
 「本当の話ですか? いち生徒であるあなたがそこまで知っているのは不自然に思います」
 香耶ちゃんが突っ込みをいれた。
 「顧問から全部聞き出した。こっちも必死だから。コーチの事、大事だし、守りたいから」
 京佳ちゃんは今でも瑞希ちゃんのことが好きなんだろうな。わたしよりも瑞希ちゃんへの想いが強いって感じてしまう。
 「送り主は? なにか要求は?」香耶ちゃんが感情的な口ぶりで冷静な質問を投げかける。
 「送り主、不明。要求はないみたい」
 京佳ちゃんは唸りながらお弁当に箸を伸ばした。ご飯で膨らんだほっぺが萎み、水筒に口を付けて飲み下すと、息を吐きだして続けた。
 「どうしたらいいかな……コーチが首になっちゃうよ」
 さっきまでと違って泣きそうな声だった。
 「まだそうと決まったわけじゃ……」
 そこまで言って香耶ちゃんが言葉に詰まった。
 わたしは、ずっと言い訳を探している。でも、どうしても、見苦しい記者会見のような突っ込みどころ満載な言葉しか見つからなかった。
 「瑞希先生に連絡はしましたか?」
 京佳ちゃんは首を横に振ってヤケを起こしたようにご飯をかき込んだ。
 「春ちゃん、電話して今の話、全部伝えたほうがいいと思う」
 部屋の隅っこに行って瑞希ちゃんに電話したけど出なかった。どうしたらいいんだろう? 香耶ちゃんは情報を整理して紙に書きだした。シンプルに書かれた文をわたしはそのままスマホに打ってLINEで送信した。
 「春ちゃん、何か手がないか考えよう」
 そう言われても、何をどう考えたらいいのかまるで分からない。今のわたしは、唇を何度も歪めることしかできない。
 京佳ちゃんがわたしの肩をつかんで強く揺さぶった。
 「しっかりしてくれよ。変装までして皆だまして付き合ってたんだろ。もう一回なんとかだますんだよ」
 「だますって……。でもどうやって?」
 椅子の足が床にこすれる音をさせて京佳ちゃんが立ち上がった。
 「それを考えるんだって!」
 こんなに感情的な京佳ちゃんは初めてみた。怒られたのと驚いたショックで思考が窮屈になった。
 「ねえ、落ち着こう。落ち着かないと良い解決策は思いつかないよ」
 香耶ちゃんは冷静だった。
 立った時と同じ位大きな音をたてて京佳ちゃんが椅子を引いた。
 「春ちゃん、相手に心当たりある?」
 まるで分からない。わたしは静かに首を振った。
 「瑞希先生が誰かから恨まれるとは考えずらいよね……」
 香耶ちゃんがあごに手を当てて唸った。
 「振られた腹いせってやつかな。コーチ、モテるから」
 無くはないか……。
 「あとは、バレーのライバル校の奴の嫌がらせとか」
 「今のバレー部にライバルっているの?」
 香耶ちゃんが遠慮なしの言葉をみまい、京佳ちゃんが唇を尖らせて首を振った。
 瑞希ちゃんがコーチを始めてから健闘はしているみたいだけど、バレー部はまだ一回も勝ったことがなかった。
 「大学の文化祭って一昨日だよね。それに行った人ってことになるけど」
 「うちらも行ったけど、コーチの絵なんてあったっけ」
 もしかしたらバレーボール部の誰かが見つけて、その人は瑞希ちゃんの事が好きで、そしてフラれてヤキモチ妬いて? でも、川に行ったのはもっと前だから、今さらだよね……。
 「ねえ、春ちゃん。川ってどこ?」
 「夏休みの最初に花火大会あったあの川」
 香耶ちゃんとキスした河川敷だ。これで分かってくれるだろうか。
 「あ、そっか。ちなみにいつ?」
 「多分、今月に入って直ぐ」
 「うーん」
 「なんか意味あるの?」
 「情報は多いほうがいいかなって思って。あ!」
  香耶ちゃんが手を挙げた。
 「ねえ、おたくの生徒と教師がって書いてあったんだよね?」
 「え? いや分かんないけど。なんで?」
 「だとしたら、差出人はこの学校の生徒や教師じゃないってことになる」
 「ああ、そっか」
 香耶ちゃん、とても冴えている。
 でも、ここで行き詰った。その先に推理が進むことはなかった。
 京佳ちゃんが空のお弁当箱をまとめて立ち上がった。扉を開ける前に止まって痛い言葉をこぼした。
 「最初から言ってくれたらよかったのに」
 背中からも口調からも感情が読み取れなかった。
 全てが狂い始めた気がする。

続く

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※ 画像と記事は関係ありません。画像はAIアプリを使って生成したものです。