💞L恋小説 春の晩夏24💞 カノジョの隣り
『苦しくったってぇ~悲しくったってぇ~こおとぉの中では、平気ぃ~なの♪』昨日、京佳ちゃんが歌った曲が頭の中で何度も再生され、唇の手前で声にせずに繰り返している。わたしにとって平気な場所の一つが無くなっちゃうのかな?
結局、瑞希ちゃんには電話もLINEもしなかった。京佳ちゃんには電話したんだからわたしにも何かしら連絡がくるって思ってた。でも、瑞希ちゃんから連絡はないまま、次の日になってしまった。
教室で香耶ちゃんをみて思った。
―― こじらせたままにしたらいけない。
わたしは色々と保留にすることで香耶ちゃんと単なるクラスメイトの関係になってしまった。思い起こせば香耶ちゃんのことは苗字じゃなく意識さえせずに『ちゃん付け』で呼んでいた。そんな貴重な人との関係が離れてしまったのはわたしがきちんと向き合わなかったからだ。瑞希ちゃんとだってしっかりと話さないといけない。
休み時間になって廊下のロッカーからスマホを出して直ぐにLINEした。
『会って話がしたい』
授業になるギリギリまで待ったけど返事がこない。携帯は廊下のロッカーにしまっておかないといけないんだけど、ルールを破って授業中の教室に持ち込んだ。何度かメッセージを確認したけど、未読のままだった。この沈黙が何を意味しているのか気になってどうしょうもない。
昼休みに秘密の部屋に行ったけど瑞希ちゃんはいなかった。他に居るとしたら昇降口の脇にある来客用の受付けか、図書室の貸し出しカウンター隣りの事務員受付窓口だ。でも、瑞希ちゃんがいると行列ができるから、よほどじゃない限り図書室にはいないだろう。職員室や、来客の案内なんかをしている可能性もある。
一先ず一階の窓口に行ってみたけど、そこには他の人がいた。職員室に入る用事はないから前の廊下をうろついてみた。扉が開くたびに覗いて見たけど瑞希ちゃんを確認できなかった。図書室にも行ってみた。受付には別の人がいた。目が合ってしまった。
「もしかして影山さんに会いにきました?」
「いえ、違います」
「今日はお休みしていますよ」
しらばっくれるべきだったかもしれないけど、会釈して立ち去った。
そもそも休みなのか? それとも突然、休んだのか? どうしたんだろう? 大学かな? 放課後にはバレー部にくるのかな? 京佳ちゃんに聞くわけにもいかないし。
結局、わたしのメッセージは相手にされないまま帰りのホームルームも終わった。
家に向かって歩いていたら後ろからきた車からクラクションが鳴らされた。道の端によって歩いた。そしたらまたクラクションが鳴った。ナンパ? 取り合えず警戒しながら振り向いたらトマト色した軽トラックの運転席に瑞希ちゃんが乗っていた。ドアロックが外れた音がした。わたしは助手席のドアを開けた。瑞希ちゃんの横顔は、別れでも切り出しそうな深刻な顔をしている。そのままでいたら後ろからきた車にクラクションを鳴らされて乗り込んだ。
瑞希ちゃんはハンドルに手を乗せて前を見つめたままだ。なんて切り出したらいいのか分からなくなって「この前の車と違う気がする」って関係ないことを呟いた。
「買ってしまいました」
「ホントに?」
「2万円でした」
「車ってそんな値段で買えるの?」
「コネです」
「部活はいいの?」
「今日は自主練してもらっています」
どうでもいいようなやり取りに少しのギクシャクを感じた。
瑞希ちゃんはスマホを出して午前中にわたしが送ったメッセージを見せた。
「お話し、してください」
「あ、うん」学校では話す気満々だったのに、歯切れの悪いわたしがいる。
「どこか行きたい所はありますか?」
首を横に振った。瑞希ちゃんは頷くと車を出した。怒っているような感じはないけど、いつもの瑞希ちゃんよりも確実に言葉が少ない。これをどう解釈したらいいんだろう?
でも、この空間はすごく自然だった。流れていく景色を目に映しながらお互い顔を合わせずにそれでいてお互いを感じていられる。この打ち明け話には丁度いいのかもしれない。わたしは京佳ちゃんとの経緯を話し始めた。
瑞希ちゃんは一度もこっちを見なかった。でも、ちゃんと話は聞いている。身体から発する微妙な反応からそう感じることができた。
わたしの説明は終わった。瑞希ちゃんは分かってくれるだろうか?
車は夏の始まりに香耶ちゃんと花火を見に来た川に着いた。もういい加減でしっかりと夕方だった。川の向こうにある山の後ろに夕陽が沈もうとしているけど、その存在の余韻を濃く残すように雲を下から紅く照らしている。
わたしたちはトラックの荷台に並んで立って夕日を見つめた。川面が最後の力を振り絞って夕陽のキラキラを巻き散らしている。
瑞希ちゃんは目を細めて話し始めた。
「詳細な経緯説明ありがとうございました。私の知らないところで何があったのか理解できました。今度は私の話を少しだけ聞いてください」
理解してくれたことにはほっとした。でも、顔の険しさは変わっていない。どんな話しをするんだろう。全く安心できないわたしの隣で瑞希ちゃんは深呼吸をして話し始めた。
「昨日、春ちゃんと新田さんが抱きしめ合っている姿を見て凄く腹立たしかったです。自分でも驚くくらい。今までの人生でこんなに怒りがこみ上げてきたことがあっただろうかって思いました」
「ごめん。嫌な思いさせて」
瑞希ちゃんは首を横に振った。
「私の未熟さです。教師になろうというのに情けない。人が怒るのはどうしてなのか分かりますか?」
「頭にきたから?」
「更に根の部分。人の本質の部分です」
「うーん、分かんない」
「怒らないと乗り越えられない出来事に直面したからです。人が怒るってそういうことです。スポーツとか格闘技などで大きな声をだしたりしますよね。うぉーとかって。そうやって怒りの感情を出すことで乗り切るための力を内から引っ張り出しているんです」
「へーそうなんだ」
「ちなみに、怒りっぽい人ほど、普通の人よりも壁を乗り越えるのに大きな力が必要だということです」
なんか分かった気がする。そして、いつもの瑞希ちゃんを感じる。
「強く嫉妬したんです。あの時の私。冷静に考えれば分かるはずなのに……。そんな自分が情けないです……」
瑞希ちゃんは口元をゆがめ、下唇を何度も噛んだ。こんな顔は初めて見る。
「もう止めよ。唇荒れちゃうよ。ガサガサだったらキスしたくない」
瑞希ちゃんはくすって鼻で笑うと自分自身を納得させるように頷いた。
「そんなにまで想ってくれて幸せだよ」
身体の右側を瑞希ちゃんにぴったりとくっつけたら、ぐいって引き寄せられた。
「ねえ、この軽トラック、本当に買ったの?」
「ええ」
「ウケる」
「荷台に寝転がって空を見ると気持ちいいですよ」
二人で仰向けになってみた。残念ながら爽快な空はなく、微妙な暗い色が広がっている。土手の方から犬の泣き声が聞こえる。少し不安になった。
「瑞希ちゃん。大丈夫だよね? わたしたち」
「勿論です」
瑞希ちゃんの手がわたしの手をぎゅって握った。
続く
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※ 画像と記事は関係ありません。画像はAIアプリを使って生成したものです。

