早く二人になりたい 💞L恋小説 春の晩夏19💞

L恋小説

💞L恋小説 春の晩夏19💞 早く二人になりたい

 声の主はやっぱりバレーボール部の人だった。先週、体育館で見た覚えがある。両親だと思われる人たちと三人でいる。取り合えず新田さんはいなくてほっとした。しかし、人気者なわたしのカノジョ、挨拶だけで済むわけもなく、誘いの言葉がかけられた。
 「コーチ、良かったら一緒に食べませんか?」
 その人に同調して両親も「是非」って言ってわたし達をテーブルに誘い、店員さんに広い席に移動できないかとまで言い出した。
 「お気持ちは嬉しいのですが、今日は従妹と約束をしています」
 「折角だから従妹さんも是非、是非」
 何が折角なのかは不明だけど、小母さんは人懐っこい笑顔でわたしを手招きした。
 先生はわたしの耳元に顔を近づけ、席で待っているようにささやいた。距離感がつかめなかったのか、先生の唇が耳たぶをかすめた。反対の耳も熱くなった。

 いくつかの会話のやり取りを終え、先生は直ぐに戻ってきた。
 人見知りが激しくコミュニケーションが苦手な従妹を、唯一懐いているお姉さんが連れ出しているという設定にしたらしい。なるほどナイス設定! そう言われたら誰だって無理強いはできないし、わたしがあからさまに顔を隠したりしても納得できるよね。ちょっとくらいならベタベタしても不思議はない? どうせなら甘えてみようかな。
 「という理由から、夏月さんがわたしを先生と呼ぶのは変なので、瑞希ちゃんと呼んでください」
 「え? でも、なんかさ」今さら名前で呼ぶのはね……。
 「これからも誰かと出くわすことは確実にあると思います。その時のためにも瑞希ちゃんって呼んでください」
 「う、うん。でもなんか急には」
 「練習しましょう。瑞希ちゃんと呼んでみてください」
 「いやいやいや」
 さっき打ったお蕎麦を店員さんが持ってきたお陰でこの件はうやむやになった。
 お蕎麦は過去一の美味しさだった。ソバの香りがしっかり主張している。ワサビの風味も抜群だった。茎の方から先端に向かって辛さが強くなっていくって教えられたから三段階にすって繊細な味変を楽しんだ。
 「すっごい美味しいね。先生、ここ良くくるの?」
 「先生ではなく瑞希ちゃんです」
 「あそこまで聞こえないよ」離れた席にいるさっきの家族が、こちらを気にしている様子はない。
 「念の為です。ご協力お願いします」
 「つうかさ、従妹にそんな丁寧な言葉おかしくない?」
 「確かに。ちなみに、ここには初めてきました。調べたら評判良かったので。気に入ってくれましたか?」
 「うん」
 相変わらず話がそれても先生の会話は戻ってきて最初の問いに答える。きちんとした性格なんだろうな。そう言えばボットちゃんとかって失礼な呼び方しようとしたことあったな。それがこんな関係になるなんて思いもしなかった。瑞希ちゃんて呼ぶのか。なんか意識すると照れくさい。

 食事を済ませて先生の部屋に行った。エッチしたかったから、もっとどこかに行ってみようという誘いは断った。この前と同じ黒の上下をわたしは身に付けている。
 先生は大家さんに軽トラを返すから部屋で待っててって鍵を差し出した。
 本棚にはこの前は一冊もなかったバレーボール関係の本が何冊も並べられている。新品ではないから以前、先生がみていたものなのかな。でも、なんでこの本たちはなかった事にされていたんだろう? わたしは隅っこに追いやられた浮世絵の本を取って開いた。
 LINE電話がかかってきた。スマホを見ると新田さんからだった。なんだろう? もしかして、さっきの人が気付いて新田さんに……。いや、それはないよね。ちょっと迷ったけど出てみた。
 「春ちゃん、タッパー洗ったから返したいんだけど、今から会えない?」
 「ごめん。いま出かけてて」取り合えずはバレてなくてよかった。
 「そっか、実は相談したいこともあってさ。今日はもうむりだよね?」
 「うん、ごめん」
 「じゃあ明日の昼休み。他の人には聞かれたくないから誰にも見られない場所がいいな。春ちゃんどこかない?」
 あるにはある。でもそこはわたしと先生の秘密の部屋だ。
 返事に迷っているとドアが開いて先生が入ってきた。
 「お待たせしました」
 ―― ヤバっ。
 「じゃあ、明日。場所はちょっと考えておくね」
 「部屋むっとしませんか?」
 状況を分かっていない先生の声を拾われないように口元を手で覆った。
 「ごめん。いま忙しくて」
 「そっか、こっちこそごめん」
  なんとか通話を終えた。
 「電話していたのですね。気が付きませんでした」
 先生は音をたてないように窓を開けていた。
 「あ、なんか新田さんが……」言わなくていい事を報告してしまった。
 「そうなんですか。やはり仲がいいみたいですね」
 「そう言うんじゃないから」
 「分かってます」先生がわたしを抱き寄せた。
 レースのカーテンが揺れて外の爽やかな空気が入ってきたことを教えてくれる。
 抱かれたい。エッチしたいじゃなくて抱かれたい。そう思った。先生の顔を見上げると唇が近づいてきた。わたしはそれを受け止める。柔らかい感触を唇で味わう。学校でこっそりする瞬間キスもドキドキするけど、気にするものがなにもない状況でするキスは続きがあることを知っている分、違ったトキメキがある。

 

続く

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※ 画像と記事は関係ありません。画像はAIアプリを使って生成したものです。